血圧の「数値」をどこまで気にするか(イメージ)

血圧の「数値」をどこまで気にするか(イメージ)

大事なのは患者の価値観

 東大医学部卒の医師・大脇幸志郎氏も「血圧を下げる効果は想像よりもはるかに小さい」と言う。

「確かに血圧の数値を下げることが、将来的な心筋梗塞や脳卒中のリスク対策になる部分もあるでしょう。ただ、年齢や喫煙の有無など、病気のリスクが血圧以外にもたくさんあることを踏まえると、薬で血圧を下げることの効果は、皆さんが期待するほど高くない。

 臨床試験では大抵、血圧によって差がつくのは対象患者のうち数%ほどです。そもそも、血圧は年齢を重ねるほどに高くなるもので、老化の一つ。私は高齢の患者さんには目標値を高めに設定するようにしています」

 さらに大脇氏は、「薬を飲んだ際の副作用のリスクにも注意が必要」と語る。

「特に高齢者の場合、薬で血圧を下げる場合は立ちくらみやふらつきが出やすくなる。一部の降圧剤には副作用として筋肉を弛緩させるものがあり、足に力が入らなくなる可能性がある。すると骨折などが原因で車椅子や寝たきりの生活になるかもしれず、副作用のリスクを考えることはとても重要です」(同前)

 また、処方のされ方にも注意すべき点がある。

「年齢を重ねた患者さんほど薬をたくさん飲んでいるケースが多い。医師や家族が患者さんを安心させようとして薬が増えるとか、相互作用を考えずに処方するケースも散見される。そのなかに血圧の薬が入っている場合があります。しかし高血圧の薬のせいで他の症状を引き起こすことがあるので、より注意が必要です」(同前)

 血圧の数値に向き合ううえで最も大事なことは何か。大脇氏が続ける。

「心筋梗塞や脳卒中は長生きをすればいつかは罹患する病気であり、血圧の治療をすれば劇的に変わるとの証拠もありません。それに対して時間やお金を使うかどうかは、ご本人の価値観を優先して考えていい。

 私は、ざっくり140という基準値を採用しますが、患者さんが薬のせいで転倒するところを見たくないのでそれを患者さんに押し付けることはしません。ガイドラインはそもそも目安でしかなく、それぞれの事情に合わせるのが本来あるべき医療の姿です。ぜひ医師に、ご自身の価値観、希望を伝えてください」

 血圧の「数値」をどこまで気にするか。決めるのは患者自身だ。

※週刊ポスト2022年10月28日号

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