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忘れ去られた恐怖の病「狂犬病」 150か国以上に現存、発症したらほぼ助からない

海外では「狂犬病」はまだ…(イラスト/斉藤ヨーコ)

海外では「狂犬病」はまだ…(イラスト/斉藤ヨーコ)

 人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、日本では忘れ去られた「狂犬病」についてお届けする。

 * * *
 10月11日以降、日本への入国者数の上限撤廃や個人旅行の受け入れ再開など水際対策が大幅に緩和されました。また、コロナワクチンの3回以上の接種証明もしくは海外出発前72時間以内の陰性証明の提示で、入国時検査が原則不要となりました。この秋からついに海外旅行の再開を迎えたと言って良いでしょう。日本人の海外渡航も一気に増えるでしょう。

 そこで今週は、日本では忘れ去られた死の病ですが、海外の多くの国では現在もなお発生しているヒトの狂犬病の話をしましょう。

 今年1月、ニューズウィークに米国の狂犬病の記事が掲載されました。それによると、昨年、アメリカでコウモリを介した狂犬病の感染例が複数報告され、彼らは全員が発症の3~7週間前にコウモリと直接接触していたことが分かっており、発症から2~3週間以内に死亡したというのです。

 狂犬病ウイルスはヒトを含むすべての哺乳類に脳炎を起こし、発症すれば助かる見込みがほぼゼロの感染症で、日本など一部の国を除いて、世界150か国以上に存在します。

 過去の日本では主に犬に咬まれて感染することから狂犬病と名前が付きましたが、海外では犬、猫、猿、コウモリ、アライグマ、フェレット、狐などに咬まれた、ひっかかれた、なめられた等の場合にも感染を疑わなくてはなりません。

 感染動物の唾液中には狂犬病ウイルスが多く存在するので、すぐに傷口を開いて流水と石けんで15分以上洗い流し(傷口をなめる、吸い出す等は厳禁)、ポピドンヨードで消毒し、ただちに現地の医療機関を受診します。医師はWHOの基準にしたがって、ワクチンの接種の必要性を判断します。咬まれた後でも、ワクチンを緊急に接種することで、発症を予防することができる場合があります。

 狂犬病ウイルスが体内に侵入すると、1日あたり数ミリから数十ミリの速度で神経を上行して脳に向かい、中枢神経に達するとそこで増殖して各神経組織に拡散し、唾液腺で大増殖します。急性期には狂躁、錯乱、幻覚などが現われます。喉咽頭が麻痺して唾液を飲み込むことができず(嚥下障害)、水を飲むことで激しい痛みのある痙攣をおこすために水を飲むことを避け(恐水症)、風にあたっても痙攣をおこすので風を避けるようになる(恐風症)ほか、高熱、幻覚、錯乱、麻痺、運動失調などになり、犬の遠吠え様の声をあげ、大量のよだれを流しながら、やがて昏睡状態となり呼吸が麻痺して死に至るか、突然死します。

 日本はこの狂犬病を、戦後、国を挙げての野犬の捕獲、飼い犬の登録、犬へのワクチン接種によって国から根絶したのです。そのため、現在はヒトも感染する狂犬病の脅威が忘れられていますが、とにかく、海外では動物に手を出さないように。狂犬病は発症したらほぼ助からない感染症なのです。

【プロフィール】
岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学大学院を修了後、順天堂大学にて医学博士を取得。国立感染症研究所などを経て、現在は白鴎大学教授。専門は感染免疫学、公衆衛生学。

※週刊ポスト2022年10月28日号

狂犬病の恐怖とは

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