北海道に最も近い歯舞諸島・貝殻島まではわずか3.7キロ。沖合には海上保安庁の巡視船が頻繁に航行する(撮影/山本皓一)
1987年に開業したタワーは、東京都の観光開発会社が26億円をかけて建設した「バブルの塔」でもあった。その落成式典は笹川氏や当時の根室市長、北海道副知事なども出席する盛大なイベントだった。そして当時は、“景色を眺める以外の目的”にも使われていたという。
「あの頃は、携帯電話が普及してない時代だったもんでね。漁師の奥さんたちがトランシーバーを持って展望台に上がってさ。望遠鏡でソ連の警備艇が近づくのを見つけると、沖合にいる旦那に『あんた、気をつけて!』って知らせたもんですよ」(同前)
だが、バブル崩壊直後の1993年に当初の運営会社は倒産。その後、タワーの所有権は京都の観光会社に移り、2012年に「オーロラタワー」としてリニューアルオープンするも、経営は好転しなかった。現在は、領土返還運動にかかわるNPO法人が管理運営にあたっているが、当面、観光客の受け入れを再開する予定はないという。
「そもそもこのあたりは天気の良い日が少ないんですよ。雨、曇、霧、雪が多いから。北方領土が見えないと分かっていながら、エレベーターのお金を払って展望台まで登る人は少なかったな」(同前)
タワーが建設された頃には4万人近い人口があった根室市だったが、2021年には約2万4200人にまで減少。集客の起爆剤も見当たらず、かといって解体費用も捻出できないとなれば、オーロラタワーが「バブル廃墟」の仲間入りすることは避けられない。単に「北方領土を望み見る」というニーズが著しく減少していることは、ボロボロになったタワーの姿が物語っている。本土最東端・納沙布岬の「演出」が求められている。
(文・写真/山本皓一 取材協力/欠端大林)