長男の清原正吾は慶大で活躍(時事通信フォト)
息子二人のインタビューも
しかし、本ではそこにしっかり触れていた。逮捕された時、角川春樹氏の娘がテレビで語っていた言葉で体にエネルギーが湧いたこと。知り合って間もない頃、岸和田にある清原の実家に行ったら、義母が「あまり整理整頓されていない」台所で「1缶数万円の蟹棒の缶詰」を使ってオムレツを作ってくれたこと。その義母の訃報は弁護士を通じて知ったこと。事件の後、LINEを交わした友人が数分後には華やかな投稿をインスタグラムに上げていたこと。「薄っぺらい心配は興味と表裏一体ではないか」という言葉は実感なのだろう。
驚くのは息子二人のインタビューの掲載だ。かなり率直に答えている。離婚の後は父親が嫌いだったとか、事件の後、いったんは辞めた野球を再開し打てなくて悩んだ時に思い浮かんだのが清原だったとか。父親というより野球選手としてだそうだが。
この家族にとって野球は単なるスポーツの種類ではなく、イコール父親なのだ。ちなみに家族内で清原は「あぱっち」と呼ばれているそうだ。
つい家族内と書いたけれど、亜希さんと清原は復縁したわけではない。しかし、新しく設立した清原の個人事務所の代表を彼女は務めている。どういう経緯なのかは書いていないが、大したもんだなあと思う。離婚はしても、やっぱり家族なのだ。清原が息子の父親だからとかではなく、四人の結びつき方が「家族」である。
私は今、新しい家族のあり様をテーマにした小説のプロットを作っている。何かヒントがあるかもしれないと思い、この本を手にしたのだが、とても刺激を受けた。自分の物語がこんな現実が越えられるのか、自信がなくなるほどだ。
◆甘糟りり子(あまかす・りりこ)
1964年、神奈川県横浜市出身。作家。ファッションやグルメ、車等に精通し、都会の輝きや女性の生き方を描く小説やエッセイが好評。著書に『エストロゲン』(小学館)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)など。最新刊『バブル、盆に返らず』(光文社)では、バブルに沸いた当時の空気感を自身の体験を元に豊富なエピソードとともに綴っている。