──思えば猪木さんは、力道山の門下生でした。
「初めて会ったのは彼が19歳で私が21歳。後年『力道山にはよく殴られた』って言ってたけど、主人は『アゴ』って呼んで可愛がっていました。主人は何かあると『アゴを呼べ』って言うんです。それでご飯を食べさせたり、お酒を飲ませたり」
──愛情の現れですね。
「赤坂のリキ・アパートの8階が夫婦の自宅で、敷地内に建つ一軒家が若い選手の寮でした。猪木さんも寮にいたんだけど、自宅に呼ぶときは『いいか、誰にも見つかるな』ってわざわざ釘を刺すんです。猪木さんも自分が特別扱いされていたことは気付いていたと思う」
(第2回につづく)
【プロフィール】
細田昌志(ほそだ・まさし)/1971年生まれ、岡山県出身。ノンフィクション作家。近著『沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝』(新潮社)が「第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞」を受賞。「NEWSポストセブン」にて、11月25日よりノンフィクション連載『力道山未亡人~元日航CA・田中敬子の数奇な半生~』がスタート予定。
田中敬子(たなか・けいこ)/1941年6月6日、神奈川県生まれ。神奈川県立横浜平沼高校卒業後、日本航空の客室乗務員として勤務。この時期に撮影した写真を力道山に見初められ交際開始、1963年6月5日に結婚。同年12月15日、力道山が他界。その後は未亡人として、娘を育てながら亡夫の事業を引き継ぐ。現在は力道山の菩提を弔いつつ、数々の社会事業に貢献している。
※週刊ポスト2022年12月2日号