一方、オリジナリティの高い企画は、『ドラフトコント』『誰も知らない明石家さんま』の2つで、どちらも土日のゴールデンタイムらしい大型特番。平日では『天才たちのドッキリ』が異彩を放っていますが、配信視聴を得るためにも「本当は手堅い企画より、これらの笑い要素が濃い特番をもっと手がけたい」と思いながらも、視聴率や予算の問題もあって難しいようです。
「そもそも特番ではなく、レギュラー番組を普通に放送すればいいのでは?」と思うかもしれませんが、「それでは現状が悪化する一方」というのが現実。コロナ禍に見舞われて以降、テレビ番組の視聴率は下がり、「普通に放送していてもなかなかリアルタイムで見てもらえない」という状態が続いていました。
“唐突”ではなく“模索”特番だった
その対策としてこれまでは「レギュラー番組の2時間特番などでスケール感を出す」という戦略が採られていましたが、視聴者に慣れられて効果が薄れたことで、別の特番を放送する必要性に迫られているのです。
本来、特番は「週末の日中か、平日の深夜帯でパイロット版を何度か試してからゴールデン帯で放送し、その結果がよければ続けていく」というステップを踏んでいましたが、必ずしもそうではなくなりました。いきなりゴールデン帯で放送される特番もあれば、一度放送して結果が微妙でも二度目のチャンスを与えるなど、番組編成の考え方が変わってきているのです。
その変化は、たとえば13日にテレビ朝日が『世界ラリー日本大会』、フジテレビが『パリ五輪代表選考会 第3回 卓球TOP32』という、ふだん扱っていないスポーツ特番を重要な日曜ゴールデンタイムで放送したことからもうかがえます。「これまでのセオリー通りやっていてもうまくいかない」という実感から、「今の視聴者が『リアルタイムで見たい』と思えて、その上でコスパのいい企画は何なのか」を本気で模索しているのでしょう。
11月に乱発されている“唐突特番”の実態は、“唐突”というより“模索”という意味合いが強いところがありました。その根底にあるのは、「リアルタイム視聴をベースにしたビジネスモデルをなかなか変えられない」という民放各局共通の悩み。番組配信や関連商品・イベントなどの収益化が劇的に進まない限り、現在のような模索は続いていくでしょう。
さらに20日に開幕したサッカーワールドカップの影響を受けて、今後もさまざまな“模索特番”が見られるのではないでしょうか。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。