スポーツ

なぜ森保一監督は信頼されるのか 選手を動かす「聞かせる力」の背景にあるもの

森保一監督

選手からの信頼も厚い森保一監督(写真/Getty Images)

「話を聞いてもらう力」とは、「心配される力」なのかもしれない。ドイツ戦で驚くような選手交代策を見せ、日本を逆転勝利に導いた森保一監督(54才)を知る人は、彼のことを心配し、彼の言葉を信じ、彼に厚い信頼を寄せていた。なぜ森保監督を多くの者が心配してしまうのか。そこには小手先ではない彼の「聞かせる技術」があった──。

 歴史的勝利や痛恨の惜敗などで、列島を熱狂の渦に巻き込んだカタールで開催中のサッカーW杯。日本代表の奮闘には、国民が喜怒哀楽をあらわにしたが、中でも多くの賛否を浴びたのが森保一監督だろう。

 そもそもW杯前は逆風が吹き荒れていた。2021年9月からのアジア最終予選は初戦のオマーンに敗れ、3戦目のサウジアラビアにも敗戦。巷には森保監督の解任を求める声があふれた。崖っぷちから大会出場を決めても「面白くない」「無策」「選手交代が遅い」とバッシングされ、ツイッターでは「森保解任」のハッシュタグをつけた投稿が相次いだ。

 それでも選手は監督への信頼を失わなかった。主将でDFの吉田麻也選手(34才)は、解任論が噴出する中で森保監督をこう擁護した。

「本気で選手のことを考えてくれる数少ない監督。神輿を担ぎたい」──。

 サッカー誌記者が指摘する。

「負けが込んだ指揮官は求心力を失うことが多いが、選手は『森保監督のために』と一丸となってW杯に臨み、ラモス瑠偉など普段は辛口のOBも森保さんをバックアップしました。浮き沈みが激しいサッカーの世界ではめずらしいことで、森保さんの人徳がなせる業でしょう」

 競争が厳しいサッカー界は「オレが、オレが」となりがちだが、選手は森保監督の言葉には素直に耳を傾けたという。森保監督の「聞かせる力」はどこで生まれたのか──。

 森保監督は根っからの「苦労人」で知られる。1968年、静岡県掛川市に生まれた。父の仕事の都合で長崎県に移り住むも、長崎日大高校時代は無名のサッカー選手だった。在学中に入団テストを受けて実業団のマツダ入りが内定したが、思わぬ落とし穴が待っていた。

「入社前に採用枠が1つ減り、最も評価が低かった森保さんはマツダ本社ではなく、子会社のマツダ運輸に配属されました。本社入りした同期より待遇や給料が劣っていたようですが、腐ることなく、毎日梱包の仕事をしてからサッカーの練習に励んだ。地道な努力が認められて、子会社入社から1年後に本社採用になりました」(前出・サッカー誌記者)

 縁の下の力持ちタイプで目立たないミッドフィルダーだったが1992年に転機が訪れた。恩師であるハンス・オフト氏が監督になった日本代表に招集され、キリンカップに挑んだ。

「まったくのノーマークでファンから『モリ・ホイチって誰?』と言われたほど。しかしピッチでは強豪アルゼンチン相手に奮闘し、相手の監督が『最もよかった日本選手はモリヤス』と絶賛した。これを機に日本代表に定着しました」(前出・サッカー誌記者)

 1993年には残りワンプレーで悲願のW杯出場を逃す「ドーハの悲劇」に見舞われた。フル出場した森保監督はショックで試合後の記憶がなく、気づいたときは宿泊先のホテルのベランダで泣いていたという。

「華やかなスター選手ではなく、多くの挫折を経験した苦労人であることが、森保さんの言葉に説得力を与えています」(前出・サッカー誌記者)

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
犯人の顔はなぜ危険人物に見えるのか(写真提供/イメージマート)
元刑事が語る“被疑者の顔” 「殺人事件を起こした犯人は”独特の目“をしているからすぐにわかる」その顔つきが変わる瞬間
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン