現場に着いたら「大型の散水車2台」の驚き
豪雨のために増水した酒匂川を前にするシーンでは、現場入りしてから驚いたという。
「大雨の中、荒れ狂う酒匂川を前に私と息子の山本耕史くん(三浦義村)が立ち往生になるんです。このままじゃ川を渡ることはできない。でも応援に行かなきゃ向こう岸には小四郎(北条義時)を含む北条勢がやられてしまう。でも大雨で川は増水して危険な状態だというシーン。そこで、現場に行ってみたら大型の散水車が2台もあるんですよ。この短いシーンにどれだけ雨を降らせるつもりなんだって思いましたよ(笑)。
録音の具合も検討しなければいけないから、リハーサルから本番さながらで雨を降らせるんですよ。ほんとにすごい勢いでぶわーって大雨。だからもうびっしょびしょ。本番では重い甲冑をつけるし。私ね、今年で73歳なんですよ。大変なんだから(笑)。
あと坂東彌十郎さん(北条時政)との川のシーンで、私が彌十郎さんを説教して殴りかかって、突き飛ばされて僕が川を流れていくというシーンがあった。現場ではスタントマンの方が来てくれていて、私が倒れたらそこで1回カメラを止めて、川を流れるのはスタントの方という段取りだったのです。
でもその時は撮影がおしていたこともあったし、そもそも川を流れるくらい自分でやれると思って、スタントをお断りしたんです。
しかし、自分を過信したらいかんし、川をなめちゃいかん。上から見ているだけだと大した流れには感じられないけど、いざ自分が流れ始めると自力じゃ止まれないんですよ。それに全身が川に浸かるとすごい寒い。びっくりしました。板東彌十郎さんが、“危なくなったら俺が捕まえてやるから大丈夫だ”なんつってたけど、ぜんぜん頼りにならないの。流れが早すぎて捕まえられなかったって(笑)。自然を甘く見ちゃいけません。
川の端っこに支えみたいなのが立っててそれにひっかかって止まれたんですけど、それがなかったら下流まで……」
佐藤さんと脚本の三谷幸喜氏との出会いは、30年ほど前になる。
「もう30年くらい前になるのかな。私も劇団(東京ヴォードヴィルショー)をやっていて、いつも作家を探していた。行く先々でいろんな人に声をかけていたんだけど、当時は小劇場ブームで、みんな忙しくて書けないって断られていたんです。そのころに“三谷幸喜っていう面白い作家がいるよ”って、噂になっていた。
そんな折に、ちょうど下北沢の本多劇場で公演なさってるとのことだったので見に行ったんです。それが『ショウ・マスト・ゴー・オン』という芝居だった。本番中の舞台監督が芝居の主役。本番中にいろんな難事件が起きて、芝居が続けられなくなりそうになるんだけど、いろんなアイディアを出したり、みんな力をあわせて、最後までやり抜くというお芝居なんです。
それを暗転を一度も入れずにやるんですよ。映画で言う、ワンシーンワンカット。リアルタイムの時間経過で最後まで突っ走る。どんどんどんどん状況は悪くなって行くんだけど、それを全部乗り越えて最後まで演じきる、というストーリー。リアルタイムで2時間くらいだったかな。びっくりして、こんなに書ける喜劇作家がでてきたって思った。すぐに楽屋へ訪ねて、うちの劇団にも一本書いてくださいってお願いしたんです。これが最初の出会いでしたね。
その時に書いてもらったのが『その場しのぎの男たち』という芝居です。明治時代の設定で、ロシアの皇帝が日本に来た時に護衛の警察官が“日本を攻めるための下調べに来たんじゃないか”と勘違いして、斬りかかることで大変な事件に発展し、当時の松方政府が京都のホテルに集まってどう対処したらいいかといろいろとアイディアを出すという喜劇なんです。素晴らしいお芝居でね。来年、うちの東京ヴォードヴィルショーが50周年なんですけど、この『その場しのぎの男たち』を記念公演で再演しようと思っています」