当時の新聞にも大々的に報じられていた

当時の新聞にも大々的に報じられていた

あっちこっち行かされた

 そうは言っても、神奈川県の代表に選ばれたのだ。自宅では祝宴が張られたのではないか。

「そんなものは全然やってません。赤飯? ないない。お恥ずかしい話ですけど、初潮が来たときは炊きましたよ。佳子さん(継母)が『こういうときは、お祝いするものよ』って言って、それなりに盛大にやったのは憶えてる。幼い弟たちが『何で今日は赤飯なの?』なんて言ってさ、アハハ。でも、健康優良児のときはやらなかった。祖母も父も母も『あらそう。よかったね』でおしまい。近所の人も『よかったね』。お隣さんはアメリカ人だから、どのみちわからなかっただろうし」

 ともかく、神奈川県代表の健康優良児に選ばれた神野洋一と田中敬子は、11月3日に行なわれる「昭和28年度・健康優良児全国大会」に歩を進めることになった。全国大会は米軍統治下だった沖縄を除く、46都道府県の代表者が集まって、甲子園のように競い合った。──と思いきや、そうではなかった。敬子の回想がある。

「全国大会? それは行ってません。神奈川代表に選ばれただけで終わり。誰が日本一になったかなんて全然知らない」

「日本一」はそれぞれの県で行なった審査会の結果を照合し関係者が選んだにすぎず、11月3日に築地の朝日新聞本社講堂で行なわれたのは表彰式だけだった。なお「昭和28年度・全国健康優良児」の栄冠は、福岡県山門郡(現・みやま市)大江小学校の山下孝雄と、島根県益田市の田原明美の頭上に輝いている。

「ただ、別に何が変わったってことはないんだけど、何かあるたびに、いろんな行事やイベントに引っ張り出された記憶はあるんです。この神野君とペアであっちこっち行かされて」

後の自民党副総裁との因果な“出会い”

 受賞から2年後の1955年、国民体育大会が神奈川県で開かれた。10月30日に神奈川国体・秋季大会の開会式が横浜市の三ツ沢競技場で催されている。午前11時に開会のファンファーレが鳴り響き、花火が打ち上げられ、各県選手の入場行進。聖火の最終ランナーとして、74歳の平沼亮三横浜市長が白シャツとジョギングパンツで現れると、場内はドッと沸いた。

 君が代吹奏、日の丸掲揚、昭和天皇の開会宣言という一連のストリームは、おそらく、この時代どの式典においても、そう変わりはないだろう。その際、国旗掲揚の紐を引いたのが神野洋一と田中敬子だった。

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