齋藤悌子さん(87才)

米軍統治下の沖縄で活躍した伝説のジャズシンガー・齋藤悌子さん(87才)(C)Yuta Nakama

夕方になると三線を弾きながら民謡を歌っていた父

 長いブランクがあったせいか、最初は声を出すことも容易ではなかった。長女の東山盛敦子さんが続ける。

「あのときは本当に声が出てなかったので、発声練習からはじめることにしました。毎朝、公園に行ってボイストレーニングを続けてきたおかげで、いまはだいぶ感覚も戻ってきたように思います」

 毎朝6時半頃、齋藤さんは自宅近くの公園で体力作りと発声練習を行っている。

「まずラジオ体操をやって、体をほぐしてから声を出すのを日課にしているんです。最初はアパートの近くで歌っていたら、どなたかの部屋の電気がついてしまって、これはまずいと(笑い)。ご迷惑にならないよう、いまは広場で、平和の鐘を背にして大きな声を出すようにしています」(齋藤さん)

 齋藤さんの自宅近くの公園には、世界平和を祈念した平和の鐘が設置されている。太平洋戦争末期に20万人以上の尊い命が失われた沖縄では、同様のモニュメントが各地に設けられ、人々はいまも過去の歴史と向き合い続けている。齋藤さんが生まれ育った宮古島も、戦時中は幾度となく米軍機の空襲を受け、多くの犠牲者を出した。

「当時、私は小学生だったので、母や兄と一緒に台湾に疎開していました。そのため、空襲の被害には遭わずに済んだのですが、女学生だった姉は疎開することができませんでした。従軍看護隊に動員されて、看護師として銃弾の飛び交う中を走り回ってそれはもうおそろしい思いをしたそうです。

姉だけ置いていくのはかわいそうだと言って、父も宮古島に残りました。進駐軍が上陸してきたときは、自害するつもりで、常に毒薬を持ち歩いていたそうです」(齋藤さん)

 齋藤さんの父は製糖工場を営む商人だった。

「もともとは那覇出身で、穀物や豆を売るために寄留した宮古島に移り住んだんです。戦争が終わって台湾から帰った後、家族で那覇に引っ越したので宮古島の言葉はほとんど話せません。戦時中は方言を話してはいけないと厳しく言われていましたからね。それでも、小さい頃に宮古の家で、父が夕方になると三線を弾きながら民謡を歌っていたのは何となく覚えています。いま考えればそれが音楽の原体験かもしれません」(齋藤さん)

取材・文/鈴木竜太

(第3回へ続く。第1回から読む)

※女性セブン2023年2月2日号

ジャズは米兵の心のよりどころだった(写真は東山さん提供)

ジャズは米兵の心のよりどころだった(写真は東山盛さん提供)

世界的ピアニストのデヴィッド・マシューズ氏と共演(C)Yuta Nakame

世界的ピアニストのデヴィッド・マシューズ氏と共演(C)Yuta Nakama

旧姓は平良。将校倶楽部などに貼られた当時のポスター

旧姓は平良。将校倶楽部などに貼られた当時のポスター

(写真は東山さん提供)

(写真は東山盛さん提供)

(写真は東山さん提供)

(写真は東山盛さん提供)

宮古島で生まれ、戦後は那覇で過ごした(写真は東山さん提供)

宮古島で生まれ、戦後は那覇で過ごした(写真は東山盛さん提供)

美しいシンガーとして米兵からも人気だった(写真は東山さん提供

美しいシンガーとして米兵からも人気だった(写真は東山盛さん提供)

関連記事

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン