原爆忌前後だけ保管されている車庫から出てきて走る被爆電車「653号」(右)と2013年から運用している超低床車両のGREEN MOVER LEX(AFP=時事)

原爆忌前後だけ保管されている車庫から出てきて走る被爆電車「653号」(右)と2013年から運用している超低床車両のGREEN MOVER LEX(AFP=時事)

 地元民の足として親しまれる広電は、他方で原爆ドームや宮島へのアクセス路線としても利用されるので来街者や観光客が乗降する機会は多い。とはいえ、広電沿線の観光スポットは旧来からのもので、目新しさに欠ける部分もある。

 電車の運転体験ができるテーマパークは、広島県が広島市南区出島の一帯で進めている埋立地造成事業と関連している。同埋立地は、広電宇品線の終点となっている広島港停留場から約1.3キロメートルの距離にある。

 広島港の出島地区は、コンテナターミナルとして整備されているので人が集まるような場所ではない。しかし、今後に埋め立てられるエリアは、にぎわいを創出することを意識しているため、埋立地には商業施設や飲食店などを誘致し、買い物や散策が楽しめるエリアづくりを進める計画も持ち上がっている。

 人が集まるようなエリアを創出するには、移動手段が欠かせない。そうした理由から出島地区の埋立地を広電が取得し、そこへ広電の線路を延伸するとともに新しい車庫を建設するのではないかと囁かれているのだ。この新しい車庫に併設して、電車の運転体験ができるテーマパークが建設される可能性は高い。

 広島港の埋立地と広電の延伸計画については、2019年にも地元の中国新聞が報道していた。当時の報道に対して、広電が公式に何かを発表したわけではない。今回、社長が電車の運転体験ができるテーマパークと口にしたことで、周囲は計画が一気に動き出したと思ったのだろう。

 しかし、「現在も埋立地は造成中です。広電が同地を取得しているわけではありません。実際に土地を取得することになったとしても、車庫を建設するには広大な敷地が必要になります。現段階では、お知らせできることはありません」(広島電鉄の広報担当者)と、説明は慎重だった。

 それでも、電車の運転体験ができるテーマパークへの期待は地元や鉄道ファンの間で早くも高まっている。それは社長が言及したからという理由だけではない。

動く鉄道博物館と呼ばれてきた広島電鉄

 広電には、1945年8月6日の原爆投下で損傷した”被爆電車車”と呼ばれる車両が現在も走っている。被爆電車は老朽化しており、そろそろ引退するのではないかとの憶測も囁かれる。

 被爆電車のような歴史ある電車が走る一方、2019年から運行を開始したGreen mover APEXのようなスタイリッシュなデザインで未来を彷彿とさせる車両もある

 広電は新旧バラエティに富んだ車両を多く走らせているため、動く鉄道博物館とも呼ばれる。現在は走ることができるからいいが、そのうち古い車両は運転できなくなるだろう。被爆電車は、広電のみならず広島のアイデンティティとも関連する。それだけに引退後に解体されることになったら市民感情的に複雑だろう。

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