現在の広島駅は、南口の駅前広場に広電のホームがある。駅南口を出て目の前にあるから決して不便というわけではない。むしろ、便利と感じる距離と言ってもいい。
新・広島駅に建て替わると、さらに広電とJRの距離は縮まり、乗り継ぎが便利になる。
「2025年春に完成する新・広島駅は駅構内に広電ののりばが配置され、広電とJRの乗り換えの利便性が今よりも増します。このような構造になったのは、運よく広島駅が建て替わるタイミングに重なったからです。広島市が整備計画をまとめるが上手だったとか3者間の調整能力に優れていたとか、特段の苦労をしたわけではではありません」と話すのは広島市道路交通局都市交通部広島駅南口整備の担当者だ。
広島市の担当者は謙遜したが、新・広島駅は、広島市と広電とJR西日本の3者が一致団結した結晶といえる。こうした事業者間の調整は、部外者からその苦労は見えづらい。難渋するケースの方が圧倒的に多い。仮にうまく事業を進めても、それは周囲からは気づかれにくい。評価されることもない。
新・広島駅で驚く点は、ほかにもある。新・広島駅は2階部分から広電が発着する構造になることは、すでに述べた。発着ホームが駅構内の2階へ移設されるのに伴い、広電の走るルートにも変更が生じる。
従来、広電は広島駅を出発すると次の停留場は猿猴橋。その次が的場町で、そして稲荷町というルートになっていた。新・広島駅が供用を開始すると、広電は広島駅から延びる高架線を走るようになる。これは駅前大橋ルートと呼ばれ、広島駅の次は稲荷町となり、その次が新設される松川町(仮称)、そして既存の比治山下に接続する。この新ルート開通によって、広島駅―猿猴橋―的場町間が廃止される。
「新・広島駅の計画を進めていた当初は、完成と同時に現在の廃止予定区間にくわえ皆実線の的場町―比治山下間も廃止される予定になっていました。しかし、それでは不便が生じる利用者が多く出てしまいます。そうした事情から、新しく的場町―稲荷町間を結ぶ短絡線を設けることになりました。この短絡線を設けることで、循環線という新しい系統が誕生します。循環線は市内の移動がスムーズになるほか、街の活性化にもつながります」(広島市道路交通局都市交通部広島駅南口整備の担当者)
この循環線は、広島駅には行かないものの、市役所、日赤病院、広電本社、本通りや紙屋町東、八丁堀といった繁華街などをぐるりと回る路線になる。この循環線により、広島市の繁華街に回遊性が生まれる。それは市の活性化につながる可能性を秘めている
2022年は、ローカル線にとって厳しい一年だった。とはいえ、鉄道そのもの有用性が否定されたわけではない。
広島市と広電、そしてJR西日本のように利害関係を超えた協力体制を築き、鉄道のポテンシャルを最大限に引き出そうとする取り組みは、鉄道再生の模範になる一例だろう。広電の椋田社長が夢と語る電車体験のできるテーマパークも鉄道活性化の一環といえるのかもしれない。
すべての取り組みが、明るい未来につながるわけではない。それでも地元自治体と鉄道事業者が協力体制を築き、使いやすい鉄道を目指すことは全国どこでも可能だ。
広電だけではなく、鉄道全体が少しでも明るい方向へと向かう2023年になることを願いたい。