無敵の勝ちっぷりを誇る藤井聡太(時事通信フォト)
昔はミスを調べるためには、終局後の感想戦で対局者同士で意見をかわすしか方法がなかった。ただ必ず正解が出るとは限らない。ところがAIに一局を解析させると、人間が気づかない代案を次々に示すのだ。評価値が経験値に取って代わるようになったのである。
「対局後にAIで復習をすれば間違いを修正できるのですから、日々強くならないほうがおかしいです。昔は何が正解かわからずにやっていたので、勉強法もなかなか確立しなくて大変でした」と森内九段は述懐する。
羽生とてAIを取り入れていたが、誰よりも強大な成功体験がある。自分とAIにどう折り合いをつければいいのか。棋譜から迷いが見て取れることが増え、成績も下降していった。加齢の影響だって否定はできない。羽生は終わったのか──。いや、そうではなかった。
(後編につづく)
【プロフィール】
大川慎太郎(おおかわ・しんたろう)/将棋観戦記者。1976年生まれ。出版社勤務を経てフリーに。2006年より将棋界で観戦記者として活動する。著書に『証言 羽生世代』(講談社現代新書)などがある。
※週刊ポスト2023年2月10・17日号