伝統を重んじで、先祖代々家を守りつつける“名家”とは、どういったものなのか──。
「名家とは、時代を超え、一定の期間その地位を保ってきた“家”を指します」と、姓氏研究家の森岡浩さんは言う(「」内以下同)。
偉人や有名人を輩出しているか否かは関係ないという。
「名家とは一般的に、公家や武家を指してきました。これらの家々は明治憲法下で華族とされ、公的に認められた名家だったからです。しかし実際には、近代において華族に選ばれなくても、その経済力で政治にも大きな影響を及ぼした豪商や豪農も名家といって差し支えないとされています。彼らは私財を投じ、各地で教育や産業の発展に尽力し、現代日本の礎を築いたからです」
華族の多くが明治時代以降、大きく変貌する社会の仕組みのなかで、徐々に途絶えていったため、江戸時代から残っている家もまた名家といえ、そういう意味で、豪農や豪商だけでなく、歌舞伎の市川家、華道の池坊家といった芸術の世界を継ぐ家もまた、名家といえる。
「政治・商業・文化などあらゆる面で社会に貢献し続けている家が名家といえるでしょう。そして、名家が何より尊ばれる点はやはり、“時代を超える”ことにあります。伝統を守る、過去のものを守るだけでは家の存続は難しい。家の歴史におごることなく、その時代の潮流にうまく乗り、先を見据える力が必要になるのです」
たとえば、製薬会社の武田薬品工業は1781(天明元)年創業で、当初は和漢薬の商売を行っていたが、19世紀末に欧米から洋薬が入ってくると、同業者に先んじて洋薬の輸入を開始。洋薬中心の事業へと乗りかえた。家や事業を長く続けるには、こうした時代を見抜く力が必要なのだと、森岡さんは言う。
名家というとお金持ちのイメージがあるかもしれないが、“家を継ぐ”というプレッシャーは計り知れないものがあり、また現実的な話、相続税がかなりかかるため、金銭的に自由があるとはいえないケースも少なくない。特に公家は明治維新以降、爵位を与えられて名誉はあるものの、収入は一般人同様に働いて稼ぐしかなく、決して裕福とはいえない家もあった。
「名家に属する人たちは、地元からの注目を集めやすい存在でもありますから、人の見本となる品性ある態度や生活も求められてきたと思います」
名家を継ぐ人々は、さまざまな重責を担いながらも、家と品格を守り続けてきたのだ。
※女性セブン2023年2月16日号