山深い比叡山で千日回峰行をした

人間の本質に迫るような言葉をくれる光永師

人は存在するだけで「汚すこと」から逃げられない

 家の中にあるものに「ふさわしい場所」を与え、「掃除の前」の準備を始めることにいたしましょう。床に散らばっているもの、部屋の隅に積み重ねられたもの。絶対のルールとして申し上げますが、床は歩き、座る場所です。決して「ものの置き場所」ではありません。

 放り出した本や雑誌は、所定の本棚に仕舞ってください。もし溢れてしまうとすれば、本棚に収められた書籍に「優先順位」をつけ、収納できる分以外は処分するか、どなたかに譲るしかありません。なぜなら本や雑誌の置き場所は、本棚だからです。

 同様に、洋服は洋服ダンス。食器は、食器棚。靴は下足箱へ。どうしても、ものは増え続ける傾向にありがちですが、「ふさわしい場所」に戻せないものは手放すように心がけましょう。「ふさわしい置き場所のないもの」が溢れる状態こそが、「乱れた家」の正体なのです。

 掃除や整理といった言葉の真意を、あなたはどのように考えるでしょうか。「汚れを落とす」、「乱れたものをきれいにする」といった捉え方をなさるかたもいらっしゃるかもしれません。私はすこしだけ角度を変えて、考えてみることをお勧めしています。

 掃除とは、もとに戻すこと── 私はそう捉えています。

「上品下品」と同じように、「四苦八苦」という言葉も、由来は仏教です。四苦とは、人間として逃れられない「生老病死」の身体的な苦しみを指し、これに精神的な苦しみである「嫌な人との縁」、「好きな人との別れ」などを加えて、人間に起こりえるすべての苦しみを表しています。この「苦しみ」の語源はサンスクリット語(古代インドの言語)の「ドウクハ」で、もともとの意味は「よくない状態」です。仏教ではしばしば「一切は苦である」ともいわれますが、私は言い得て妙と思っています。

 人は、存在しているだけで「汚すこと」から逃れられません。死ぬまで止められない小用大便はもとより、歩けば草木や蟻を踏みつぶし、山河を破壊し、あらゆる生き物を食べ尽くす。いまでは、人工衛星やロケットの破片を宇宙にまで漂わせています。

 けれど、それでも人は生きるわけです。人間である以上、どうしても汚すことから逃れられないのであれば、もとの状態以上にきれいするところまではいかなくても、せめて「もとに戻すこと」くらいにはチャレンジしてみるのも、おもしろいのではありませんか。

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