人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、中世で黒死病と恐れられたペストについてお届けする。

 * * *
 感染症の流行は時に社会や歴史を変えてきました。

 中世で「黒死病」と恐れられたのが、1348年から数年間のペストの大流行でした。致死率の高い劇症性伝染病のペストは、当時のヨーロッパの人口1億人のうち3000万ともされる死者を出し、この悪疫で中世が終焉し、近世の扉が開かれたとされます。

 当時、フィレンツェの住人でこの黒死病に遭遇したボッカチョは著書『デカメロン』に渦中の人々の生活を忠実に描写して残しています。教会のミサに参列した淑女が7人、誰が言い出すでもなくこの街を捨てて、どこか遠くに逃げようという話になり、教会に入ってきた紳士3人を誘って10人で一緒に暮らそうと旅立つことになる。虚実と艶話を交えて語られる物語は、ペスト流行の屈指の文献でもあります。

 ペストは急性細菌感染症で、原因となるペスト菌はノミの腸管を恰好の棲み家として、自然界に生息しています。ノミの腸管内で増殖したペスト菌は、ノミが吸血した際に逆流して動物の体内に侵入、感染します。

 特にネズミに寄生するケオピスネズミノミは他の種類のノミよりもペスト菌を媒介しやすく、野ネズミ、クマネズミなどは人の住む家屋を走り回るので、ペストノミを人の生活空間に撒き散らかして人とペスト菌の接点を作り出したのです。こうして、ペスト菌がヒトの皮下に侵入すると、1週間以内に高熱、激しい頭痛、めまい、随意筋麻痺を起こし、極度の虚脱と精神錯乱を生んで、脇の下や足の付け根にあるリンパ節が腫れ上がります。

 ボッカチョによれば、「それが或る者には林檎くらいの大きさとなり、他の者では卵くらいの大きさ」で、ペストは瘤の病気と言われました。やがて皮膚に黒色、黒紫色の大きな斑点が現われ、これはペスト菌による敗血症の結果で末期症状なのですが、このような黒っぽい斑点が出て死に至ることから黒死病と呼ばれたのでした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン