二審で殺害を認める 心を動かした裁判官の言葉
── 一審では殺害を否認したあかりさんが、二審では認める。きっかけは裁判官の言葉でした。何が人を動かすのかを教えられるこのシーンは、胸に響きました。
齊藤:この裁判は裁判員裁判だったということも大きかったと思います。これまで誰にも理解されないと思って孤独に生きて来た彼女が、初めて、一般市民の裁判員や裁判官に「分かってもらえた」と感じ、救われたのだと思います。
──あかりさんは収容された雑居房で、子を持つ女性をはじめ、様々な人と言葉を交わすようになり、改めて自分と母親の関係を考えるようになります。あかりさんの変化を感じましたか?
齊藤:同房の女性と話したり、弁護士の先生やお父さんと話したりするなかで、彼女なりの思考の変化があったと思います。他人を無理やり変えることは難しいんですが、同時に、人が気づきを得たり変わるきっかけをくれるのは、人との接点や出会いなのだと、この取材を通じて感じました。
あかりさんのそういった状況と対照的だったのがお母さんです。子育てにつきっきりで、他の人との接点があまりなかったことで、価値観が固定化されやすかったのではないか。自分の生きるコミュニティや人間関係が一つに固定化されていくと、視野が狭まり、価値観が、時にエスカレートしていくことがあるのだろうと思います。
──変化もある一方で、母親から褒められたことがないあかりさんは、人から褒められると、何か裏があるではないかと疑ってしまったりするところがある。「母親」の影響力の強さも痛感します。
齊藤:あかりさんは言わば「条件付きの愛情」を受けて育ってきた人なので、他人から何かを受け取ると、見返りを求められてしまうのではないかと考える思考パターンが身についてしまっていたのだと思います。母親との関係は人生の初期の段階から長く続くもので、やはり影響は大きいと思います。