第1子に続いて、2021年末には第2子も生まれた。希望した立ち合い出産ができる病院はなんとか見つけられたが、入院中は上の子といっさい会えなかった。下の子が11か月のときに肺炎で入院することになったが、このときも、入院中、母親である辻堂さんも面会できなかったそうだ。
妊婦をはじめ、小さい子ども、高齢者、病気を抱えた人、仕事をなくした人。個別の事情を抱えた人のつらさを、気がつかずにすれ違ったこの2年だったと改めて思う。
「他の人もそれぞれみんなつらいだろうから、大変だって人に言わないんじゃないでしょうか。私もこういう取材で聞かれると答えますけど、ふだん、自分からは言わないですし。だから意外と周りの人のつらさや大変さが伝わってこないのかな、と思います」
2021年に雑誌でこの作品の連載が始まったとき、1回目を読んだ他社の編集者から、「1年前のことをもう忘れ始めているのが怖いです」という感想をもらったそうだ。
「それを読んで、2020年のあの時期のことを書き残す意味があるかもしれないな、って思うようになりました」
【プロフィール】
辻堂ゆめ(つじどう・ゆめ)さん/1992年神奈川県藤沢市辻堂出身(なので、ペンネームが「辻堂」だそうです)。東京大学法学部卒業。2015年「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞し、『いなくなった私へ』でデビュー。2021年『十の輪をくぐる』が吉川英治文学新人賞候補に。2022年『トリカゴ』で大藪春彦賞を受賞。他の著作に『卒業タイムリミット』『あの日の交換日記』『二重らせんのスイッチ』『君といた日の続き』など多数。東大卒&現役東大生作家によるアンソロジー『東大に名探偵はいない』にも参加している。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2023年3月30日・4月6日号