かつて僕が騎乗して菊花賞、有馬記念、天皇賞(春)という長い距離のGIを勝たせてもらったマンハッタンカフェも、芝の長距離が得意な産駒が多いかというとそんなことはなかった。NHKマイルカップや1200mの重賞を勝ったジョーカプチーノ、ダートのフェブラリーステークスを勝ったグレープブランデーなんかを出している。
キタサンブラックもマンハッタンカフェも現役時代にマイル以下やダートを使ってないだけで、走らせていたら実は強かったかもしれないということではないでしょうか。最初はやっぱりクラシックを目指して芝の中距離を使いたいものだし、それで結果を出せば同じようなレースを使っていくため、路線を変えるのは簡単なことではないのです。
今後ダート路線の注目度が高くなってくると、芝ばかり使っていた馬の産駒がブレイクするなんてこともあるかもしれません。よく「奥が深い血統」といったりするけれど、サラブレッドはそれだけさまざまな可能性を秘めているということなのでしょう。そういった視点で種牡馬を見ていくと、競馬はもっともっと面白くなると思いますよ。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。
※週刊ポスト2023年6月23日号