孫さんのお店の人気ランチメニュー 「海鮮たっぷり炒飯」
そんな孫さんは28歳の時に来日。どんな経緯があったのだろう。
「命令ですね、北京市からの。1991年、日本と中国は仲良くてね、もっと仲良くするために代表として行きなさいと言われた。僕とあともうひとり、料理の先生がね。四国に行きました。
その頃は『あいうえお』も分からなかった。店で、喉乾いたからこう(飲むゼスチャー)すると、ビールが来た。違う違う。水と言いたい。でも分からないから、トイレ、WCと言った。トイレ、水あるじゃないですか。それでやっとお水が来ました(笑)
生活はすごい余裕がありましたよ。毎日車が迎えに来て、お客さんみたいな感じ。通訳の人もいたし、その頃は苦労しなかった。
3年くらい経って、東京に来てからですね。大変だった。まだ言葉ができないから、分からない時に『すみません』って聞くでしょ。東京の人、逃げるんですよ。残念でした」
こういう話を聞くと申し訳ない気持ちになる。外国の人に話しかけられるとドキッとして、ついその場を去ってしまう人も確かにいるだろう。
「四国のときは、たとえば遊びで釣りに行くと、周りの人がちょっといろいろ教えてくれましたよ。だから、仕事の関係の人に『東京はなんでそうなるの?』と聞いたら、地方と東京は違うんだって言われてね。その頃から、日本語の勉強を始めました」
(第2回に続く)
【プロフィール】
孫成順/1963年生まれ、中国北京市出身。25歳で中国料理最高位「特級厨師」に。1991年来日、日本各地のホテル、レストランの料理長を歴任し、2007年来日以来の夢だった「中國名菜 孫」を六本木に開店。メディアに多数出演。
取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。