2019年12月に不適切営業で金融庁から業務停止命令を受けた日本郵政は2020年10月、営業再開に伴い信頼回復のためにチラシを配布(時事通信フォト)

2019年12月に不適切営業で金融庁から業務停止命令を受けた日本郵政は2020年10月、営業再開に伴い信頼回復のためにチラシを配布(時事通信フォト)

 先の居酒屋チェーン社員の話。

「いまアルバイトは本当に来ない。だから辞められると困るし、ネットで拡散されても困るので自爆営業はしづらい。しかし社員の自爆営業はある。自爆営業どころかアルバイト確保のための自爆雇用だ」

 店長やチーフなどがアルバイトに直接、交渉して自腹で残業代などを現金で渡すなどの行為は、自爆雇用と呼ばれている。労働と賃金について店が記録しないなど、労働基準法などに違反する恐れがある危険があると思われるが、実際、この自爆雇用は外食チェーンの一部に横行していると話す。店長が自分のお金で求人やアルバイトの残業代を補填する、信じられない話だが本当にあるのだから怖い。

「自業自得なのに反省しない連中、それが全国チェーンだったり上場企業だったりする」

 そもそも「自爆」によって成立させるような事業やプロジェクトは持続性がなく、未来につながらない。その自腹を切る先が商品だけでなく労働にまで広がるようでは、経営として成り立っていないのだから、その責任を取るのは店長や社員ではなく経営者ではないのか。「自爆」が通常業務に組み込まれるようでは、事業の仕組みそのものを変更しなければ、早晩、立ちゆかなくなるだろう。ところが自腹を切る部門を非正規や別組織にするなどして、事業運営主体には瑕疵がない記録をつくり、その場をしのぐようなことも起きている。

 歪んだ仕組みに組み込まれてしまわないようにするのが生きる知恵、と働く人たちがさまようようなことになってはいないか。自爆システムに組み込まれる選択をせざるを得ないと、諦めた労働者によって無理して継続してきた様々な「仕事」は、もう限界を迎えつつあるのではないか。

 この国の失われた30年そのままに、アルバイトなどの非正規にまで強いてきた自爆営業。そもそも労働基準法24条(賃金全額払いの原則)他に違反しているどころか、あらゆる意味で「違法」のオンパレードなのだが、それをこの国は野放しのままに来てしまった。

 かつての経験から自分の子どもや若者に「やめとけ」と直接はもちろん、ネットで拡散する時代であることも、こうした「自業自得」の人手不足に寄与しているのかもしれない。ちなみに政府や経団連の頼みの綱、外国人労働者の多くは自爆営業を「crazy」(異常)と拒否る、という話もある。異常なことは異常と拒否る。これもある意味、外からの正常化か。そもそもが彼ら、自腹で買うほどのお金はない出稼ぎが多いという面もある。

 それにしても、企業側の自省とか、コンプライアンス云々というより、この国の少子化と人口減という物理的なダメージによって、こうしたアンモラルな労働環境が改善され始めているというのは皮肉な話である。これまで代わりはいくらでもいる」と理不尽な選別を受け、さらに自爆営業という賃金そのものの搾取が平気で行われてきた日本。以前なら選ぶ側だった企業が労働者から、社会から選ばれる側に回りつつある中、改めることなくブラック中のブラック、自爆営業をいまだに強いる組織は「そんな会社は選ばない」と逆に選別され、社会的にも見切られ、人手不足どうこう以前の滅びの道をたどるだろう。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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