チャンスで凡退し、ヘルメットでベンチを叩いたこともあった(写真/共同通信社)
ゴミを拾うことは運をつかむこと
大谷の魅力には多くの教育者が注目している。米ハーバード大学の名物教授で、著書の『これからの「正義」の話をしよう』が日本で100万部を超えるベストセラーになったマイケル・サンデル教授(70才)もそうだ。
「大谷翔平選手が偉業を成し遂げたのは、自分自身の才能におごらず、野球に謙虚だったから」
サンデル教授は、2021年に参加した「オンライン国際シンポジウム」のパネルディスカッションで、大谷の行動の道徳的な意義をそう話した。
同年のシーズン終了後、大谷はメジャーリーグのMVPに選出された。全米野球記者協会の中で選ばれた30人の記者が投票し、大谷は満場一致でMVPに決まった。
その快挙の裏にも「おごらず、謙虚」の姿勢があった。
「フィールドにゴミが落ちていれば自ら拾い、人に礼儀正しく朗らかに接する。紳士的な振る舞いが彼の成功を下支えしていました」(在米ジャーナリスト)
この「ゴミ拾い」には前出のポラードさんも着目し、「ゴミを拾うことは運をつかむこと」だと子供たちに紹介している。
もちろん日本国内でも、大谷は“お手本”だ。
《夢を実現するためには》
2018年度から、光村図書出版は小学5年生向けの道徳の教科書で、最初のテーマに大谷を取り上げている。
《だれにも負けたくない、必ずプロ野球選手になるんだという強い心と、地道な練習を積み重ねる努力があったからこそ、大谷翔平さんの現在があります》
そういった文章とともに、高校時代の大谷が活用した直筆の「目標達成シート」を紹介している。大谷を取り上げた経緯を、光村図書出版は本誌にこうコメントした。
「学習指導要領に定められた道徳的価値の項目の1つに、『より高い目標を立て、希望と勇気を持ち、困難があってもくじけずに努力して物事をやり抜く』というものがあります。目標達成シートは、子供たちにとって大谷選手の目標との向き合い方をイメージしやすく、ぴったりだと思いました。
教科書の最初に取り上げていることもあり、多くの学校で、1年間の目標を立てる活動と結びつけて活用してもらっているようです」
目標達成シートの『運』の項目には、「あいさつ」「本を読む」などと並んで「ゴミ拾い」と記載されている。世界が見惚れる大谷の姿勢は、高校生の頃からの実践の賜物だった。
難しい教科でも大谷を題材にすれば、子供たちは自然と興味を持つ。2024年度から採用される小学5年生の教科書にも、大谷が登場する。科目はまさかの「算数」だ。発行する東京書籍は、制作にあたって大谷本人へのインタビューも行ったという。
「投球時、相手バッターの打球傾向を『割合』に落とし込んだり、バッティングフォームを『三角形』に置き換えたりと、大谷選手は野球に算数の考え方を活用しているそうです。
ただ頭ごなしに“計算しろ”とか“公式を覚えろ”と言われても、子供たちは算数が嫌いになるばかり。それが“大谷選手も算数を使っているんだ”と思ってくれれば、子供たちが算数を楽しめるという狙いがあるのでしょう」(教科書出版関係者)
日々、歴史の1ページを更新し続ける大谷は、子供たちが教科書の“次のページ”をめくりたくなる存在でもあった。
※女性セブン2023年7月6日号