早稲田大学に留学した時のマライさん
「私、プロフィールに『職業はドイツ人』って書いてますけど、半分はパロディです。マインドの半分は日本人ですよ。ドイツ人でもあるけど、ある意味日本人でもある。
数年前、ドイツの公共放送が面白い番組を作ったんです。『どうであればドイツ人なのか』っていうテーマで、『言葉が達者なら』『価値観を共有していれば』『5年住んでいれば』『血のつながりがあれば』みたいに幾つかの条件があって、さてどうなんでしょうという趣旨の番組。こういうこと考えるの、いいなと思ったんです。日本の政治家が『日本国民の皆さん』って言う時、日本で、日本語喋って暮らしている自分は含まれているのかなと思うことがあってね。『日本国民』に替えて『日本に住んでいる皆さん』って言ってくれるといいなあ、と思ったりします。
そうそう、私日本に15年くらい住んでますけど、一度も使ったことない日本語があります」
なんだろう? 汚い言葉だろうか?
「『いいえ』です。使わないよね? 『これ、もう読みましたか』『いいえ、まだです』って言わないよね?」
確かに……言わない。でも教科書には必ず出てくる。「〇〇さんは日本人ですか」「いいえ、日本人じゃありません。中国人です」のような例文が思い浮かぶ。使わない言葉を自分は教えてるのか!
「ははは。そういう時は『いえ、中国人です』って言いますよね。『いいえ』じゃなくて、『いえ』。強くノーって言いたい時は『いえいえ』を使うし、読んでない時は『あ、読んでないですね』みたいに言うし。
『はい』の意味の『ええ』も使わないですよね。『ええ、好きです』みたいな感じの。あ、それから『あなた』も……なんかいっぱいあるよね(笑)。『知ってるのに使わない日本語』って本があったら面白いですよね」
いいタイトルですねえと笑い、あれも、これもと出し合う。日本語の話は本当に楽しいとあらためて思う。そう伝えるとマライさんも頷いてくれた。「私の日本語の旅、いろいろあったから」と。