挨拶はしないけど、「心の中で応援」
國保氏にとって現在は盛岡一のナインが教え子だ。だが、3年生と2年生で構成された大船渡のベンチ入りメンバー20人も教え子であることに変わりない。
「不思議な感じがします。自分の子供同士が戦っているような感覚ですね。先日の朗希と宮城(大弥、オリックス)選手が投げ合った試合みたいな感じもします。これまで花巻農業、大船渡で監督を務めましたが、大船渡時代に花巻農業や盛岡一と公式戦で対戦することは一度もなかったんです。3年生にとって、負けたら高校野球が終わる最後の夏の試合で実現するなんて……こういうこともあるんですね。どちらも頑張ってほしいです」
今年3月、國保氏は大船渡ナインに対して最後のノックを行い、別れ際にこう告げた。
「今後、球場で会ったとしても挨拶はしないし、目配せもしない。『國保はなんて冷たいヤツなんだ』と思うかもしれないけど、心の中では応援しているぞ」
その真意を國保氏はこう語る。
「僕は今、盛岡一の教員で、それなのにもし僕が大船渡の選手たちと仲よさそうに話していたら、盛岡一の選手が何を思うかわからない。『やっぱり國保先生は大船渡の選手がかわいいんだ』と思うかもしれないじゃないですか」
そこまで頑なに「鉄のカーテン」を敷く必要があるのか理解は難しいが、自身が決めたことを徹底しようとする姿勢は彼の監督としての主義にも通じる。それゆえ、盛岡一と、シード校の大船渡が戦った7月21日も、会場入りから大船渡のナインには近づかないでいた。
「試合前のノックも終わったらそそくさとベンチに引き上げました(笑)」