山本のように原因が特定されるケースは少なく、突発性難聴ではどこに異常があるのか判明しないまま医療機関をたらい回しにされることもある。自由が丘耳鼻咽喉科・笠井クリニックの笠井創院長は「発見の難しさ」を指摘する。

「片方の耳に起こる難聴のため、もう一方の耳の聞こえが良いと、発症に気付かずに数日間が過ぎてしまうこともある。突発性難聴は難聴のなかでも治療ができる数少ない疾患で、発症後早期に治療を始めることが治療成績を左右する。症状を見逃さないことが何より重要です」(笠井医師)

 発症から「遅くとも2週間以内」の治療開始が望ましく、1か月を過ぎると改善の見込みはほとんどなくなるという。

 突発性難聴の治療法として唯一効果が認められているのが、「ステロイド薬」の内服や点滴だ。「血液の循環を良くし、炎症を抑え、弱っている神経の機能を改善する目的」(同前)で治療が行なわれるが、難点もある。川越耳科学クリニックの坂田英明院長が語る、

「ステロイドの服薬や点滴は、肝臓をはじめ全身に影響を及ぼします。副作用も多く、糖尿病や緑内障など既往症によっては使えない患者さんもいます」

 そうした制約があるなか、坂田医師はある最新治療法を推奨する。

「鼓膜に直接ステロイド注射を打つ方法なら、肝臓を通らずに局所にアプローチでき、糖尿病や緑内障の患者さんにも適用可能です。海外でも使われる治療法ですが、現在、日本では保険適用となりません。埼玉県では、補助が認められています」

 鼓膜への注射は痛みを伴うため「麻酔」を使うケースが多いが、坂田医師はその使用に否定的だ。

「麻酔のフェノールという成分が鼓膜を腐食させて穴が空いてしまう、鼓膜穿孔の合併症リスクがある。採血より少し痛いくらいの注射なので、麻酔なしで我慢したほうがリスクが減らせます」

 治療開始には「発症後2週間」のリミットがあるため、違和感を放っておかないことが肝心だ。

※週刊ポスト2023年8月18・25日号

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