ライフ

広末不倫、寿司テロ動画…大衆がこぞって炎上に参加する「不道徳エンタテインメント」が快感につながるワケ

広末涼子の不倫問題など、「不道徳エンタテインメント」が快感につながるワケ

広末涼子の不倫問題など、「不道徳エンタテインメント」が快感につながるワケ

 女優・広末涼子の不倫問題をはじめ、回転寿司チェーン・スシローの迷惑動画など、不用意な言動が大炎上し、SNSで誹謗中傷が飛び交う事象が相次いでいる。なぜ、特定の対象がここまで徹底的に叩かれるのか。背後にある現代社会の病理とは──。

 新刊『世界はなぜ地獄になるのか』で、現代社会に埋め込まれた“地獄”の構造を解き明かした作家・橘玲氏は、こうした騒動が続く背景に「誰もが自分らしく生きられる社会」の登場があると紐解く。橘氏に聞いた。【前後編の前編。後編を読む

 * * *
 誰もが自分らしく生きたいと願う社会では、自分らしさ(アイデンティティ)が衝突し、自らの「社会正義」を振りかざして相手の存在を抹消する「キャンセルカルチャー」が広がります。

 私は「リベラル化」を誰もが自分らしく生きられる社会を目指す運動と定義していますが、これは1960年代後半にアメリカ西海岸で生まれ、瞬く間に世界中に広がりました。人種や性別による差別をなくし、身分や出自のしがらみから解放するのは素晴らしいことですが、それがすべての問題を解決するわけではなく、新たな問題を生み出してもいる。

 かつて政治家の仕事は、地域や組合などの“ボス”と交渉し、様々な利害を調整することでした。しかしリベラル化が進めば中間共同体は解体され、社会はどんどん複雑になっていきます。こうして一人ひとりの利害が衝突すると、政治は機能不全を起こし、社会はギスギスしていきます。

 人種や性別で差別をしないということは、個人を能力と実績だけで評価することです。これがメリトクラシー(能力主義)で、リベラルな社会の大原則ですが、そうなると必然的に、学歴の低い人たちが社会の底辺に追いやられ、排除されてしまう。さらに、自由恋愛が当たり前になると、性愛の自由市場から脱落してしまう若い男性の「非モテ問題」が深刻になりました。

 リベラルな知識社会に適応できる者とできない者のあいだで格差が広がると、「自分らしく生きられない」という不満を抱える人たちが、「社会正義」を掲げて“悪”を糾弾するようになった。この異形の社会運動が「キャンセルカルチャー」です。

 これはもともとアメリカで生まれた言葉で、「SJW(社会正義の戦士)」と呼ばれる活動家(アクティビスト)が、ポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)の基準に反した言動をした者の社会的存在をキャンセル(抹消)しようとする運動をいいます。こうした「糾弾」はこれまでもありましたが、左派(レフト)がリベラルの大物知識人をキャンセルするようになり、注目を集めました。

 日本では、東京五輪を巡ってキャンセル騒動が相次ぎました。森喜朗・大会組織委員長が女性蔑視発言で辞任し、開会式の演出を担当したお笑いタレントが、過去にホロコーストをネタにしていたことがわかって解任されましたが、なかでも象徴的なのは、雑誌でのいじめ発言を理由としたミュージシャンの小山田圭吾氏へのキャンセルです。開会式の音楽の作曲担当を辞任するに至った経緯を新刊では詳しく検証しましたが、小山田氏に非がないとはいえないものの、音楽家生命を失いかねないほどの批判に値する事案なのかは疑問です。

関連キーワード

関連記事

トピックス

オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
公金還流疑惑がさらに発覚(藤田文武・日本維新の会共同代表/時事通信フォト)
《新たな公金還流疑惑》「維新の会」大阪市議のデザイン会社に藤田文武・共同代表ら議員が総額984万円発注 藤田氏側は「適法だが今後は発注しない」と回答
週刊ポスト
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン
“反日暴言ネット投稿”で注目を集める中国駐大阪総領事
「汚い首は斬ってやる」発言の中国総領事のSNS暴言癖 かつては民主化運動にも参加したリベラル派が40代でタカ派の戦狼外交官に転向 “柔軟な外交官”の評判も
週刊ポスト
黒島結菜(事務所HPより)
《いまだ続く朝ドラの影響》黒島結菜、3年ぶりドラマ復帰 苦境に立たされる今、求められる『ちむどんどん』のイメージ払拭と演技の課題 
NEWSポストセブン
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
公職上の不正行為および別の刑務所へ非合法の薬物を持ち込んだ罪で有罪評決を受けたイザベル・デール被告(23)(Facebookより)
「私だけを欲しがってるの知ってる」「ammaazzzeeeingggggg」英・囚人2名と“コッソリ関係”した美人刑務官(23)が有罪、監獄で繰り広げられた“愛憎劇”【全英がザワついた事件に決着】
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
大相撲九州場所
九州場所「17年連続15日皆勤」の溜席の博多美人はなぜ通い続けられるのか 身支度は大変だが「江戸時代にタイムトリップしているような気持ちになれる」と語る
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市首相「12.26靖国電撃参拝」極秘プランほか
NEWSポストセブン