芸能

三田佳子が考える『男はつらいよ』マドンナの存在意義「幸せになる姿を見て、観客も癒やされる」

三田佳子が『男はつらいよ』出演時を振り返る

三田佳子が『男はつらいよ』出演時を振り返る

 映画『男はつらいよ』シリーズの主役はごぞんじ「寅さん」だが、その寅さんと観客の心を常に鷲掴みにしたのがマドンナたち。1988年公開の第40作『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』(1988年)でマドンナ・真知子を演じた三田佳子(82)が、当時の思い出を語る。

『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』(1988円・第40作)
監督:山田洋次
【あらすじ】
 長野県の小諸の老婆の家で世話になった寅さんは、老婆に入院を促すためやってきた医師の真知子に一目惚れ。老婆は寅さんの説得で入院を決意し、その礼にと真知子は寅さんを家に招待する。上京した真知子は寅さんと再会し、想いを募らせるが、その後老婆が死亡。寅さんは失意の真知子を励まし、別れを告げる。

 * * *
 マドンナ役のお話をいただく少し前に、山田監督から映画の試写会に誘われたんです。その試写会後にお茶をしながらお話ししたら、私のイメージで役を考えてくださっていて、それが真知子役につながったのかなと思っています。オファーをいただいた際は、かねてご一緒したかった山田監督の作品で、渥美さんとも久しぶりに共演できるとあって、テストに合格したときのような嬉しさがありました。

 もちろん、それまでもいろいろな役を真摯に受け止めて演じてきましたので、マドンナだからという特別な思いはなかったです。ただ、それまで先輩、同輩、後輩たちが代々演じてきた長い歴史がある役柄ですし、それぞれがとても魅力的に描かれていたので、私のマドンナの色合いはどうなるのかな、というときめきがありました。

 また、私が演じた真知子は夫に先立たれ、地域のために奮闘している医師という役で、自由で風のような寅さんという存在に惹かれて癒されていくのですが、その出会いがなければきっと前に進み続けようとは思えなかったでしょう。

 寅さんが愛される理由は自由人というだけでなく、ずっと少年のような素直さと、正義感あふれる人情家なところにもあると思いますが、実際に生きていく中でそういう人でい続けるのは大変なことですよね。でも映画の中で寅さんは、「できればこうありたい」と人々が思う、そんな生き方を貫いて見せてくれる。そのかっこよさがこの作品の一番の魅力であり、長く続いた秘訣なのではと思います。

 また、この作品では当時流行していた俵万智さんの『サラダ記念日』にちなみ、短歌を随所に取り入れていて、そういった時代観を反映しているのも『男はつらいよ』の魅力ではないでしょうか。

 渥美さんとは映画『おかしな奴』と、ドラマ『幻のセールスマン』でそれぞれ恋人役を演じ、この作品が3度目かつ最後の共演でした。『男はつらいよ』のゲストは、できあがった環境に入っていくので、どうしても緊張するわけですが、渥美さんがとても気を遣ってくださり、気負わず撮影に臨めました。

 休憩時間には二人でよくセットの片隅に座り込み、冗談を交えた雑談でたくさん笑わせてもらいましたし、ある日私が帰るときに「三田ちゃんいいな〜、いつも元気で!」と声をかけてくださったのが、いい思い出です。

 寅さんに出会ったマドンナたちは、まるで「どこでもドア」で異空間に誘われたかのように、それまで抱えていた迷いや悩みと訣別し、幸せになります。映画を見た方もその姿を見て癒され、幸せを感じているのでしょう。それがこの作品におけるマドンナの存在意義であり、山田監督もそういう思いで書かれていたのかなと感じています。

 今思い返してみると、当時は監督の望む真知子像にしたいという思いが強すぎたので、自分なりにもっと自由に、「こう演じてみたい!」と言えばよかったかしら、と少し後悔もありますが、長い役者人生の中で『男はつらいよ』に参加できたことを、本当に光栄に思っています。

【プロフィール】
三田佳子(みた・よしこ)/1941年生まれ。映画『殺られてたまるか』ヒロイン役でデビュー後、ドラマや舞台などにも活躍の場を広げる。代表作に映画『極道の妻たち・三代目姐』『遠き落日』、NHK大河ドラマ『いのち』『花の乱』、ドラマ『外科医・有森冴子』シリーズなど。2014年旭日小綬章受章。

取材・文/秋月美和

※女性セブン2023年10月26日号

あわせて読みたい

関連キーワード

関連記事

トピックス

谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン