「コロナ禍で唯一、撮影ができた日仏合作映画『UMAMI』のロケでパリへ行ったとき、宿の隣の食堂でたまたま隣り合わせた老人が、『あれは笑えたな、「パリの中国人」』とボソッと言ったのです。『あの時の私だとわかる?』と聞くと、『わかるさ』と。嘘だと思いますが、それでも嬉しかった」
日本でブレイクしたのは1995年。サントリーオールドのCMだった。真面目そうなスーツ姿の長塚さんが、部下の若い女性に「課長の背中見るの好きなんです」と言われ、戸惑いながらも嬉しそうにピョンと跳ねる後ろ姿が好感度を爆上げし、“理想の上司”ナンバーワンといわれた。
「たしか、絵コンテに『ピョンと飛ぶ』と大雑把な方向性は書かれてありました。実は、女性版もあって、女性版は田中裕子さんが演じ、先に田中さんのバージョンが出来上がっていたんです。それを見て、『じゃあ、これと同じじゃないのをやればいいんだな』と僕なりに考えてあのように。でも、それがみなさんに受け入れられた、というのは、そういう時代だったんじゃないかな。努力のものというより、運や一種のひらめき、そんなことですよ」
謙虚にこう語ったが、CMは長塚さんの魅力をギュッと凝縮して見せてくれた。JR東海の「そうだ 京都、行こう。」の温かみのある落ち着いた声のナレーションも好評で、25年間も務めた。最後の放送は2018年。
「放送が終了したとたん、あのコピーを模したCM依頼がワーッとあちこちからきました。すべてお断りしたのですが、唯一、お受けしたのが小学館の隔週刊雑誌『古寺行こう』のCMのナレーションです。中身がしっかりしたいい雑誌ですよね。今も毎号、楽しみに読んでいます」
それはそれは……恐縮です!
長塚さんがこれからやりたいこと
映画作品でいえば『瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』や『笑う蛙』、ドラマなら『ナースのお仕事』(フジテレビ系)やNHK大河『篤姫』などを記憶しているファンが多いだろう。
「『篤姫』で親子役を演じた(宮崎)あおいちゃんは、『篤姫』よりさらに前の子役時代にも共演していてね。あおいちゃんはそのことをよく覚えていて、なついてくれました。『篤姫』の9年後にNHKのドラマ『眩(くらら)~北斎の娘~』でまた親子役を演じました。素敵な女優さんですね」
大河ドラマ『独眼竜政宗』や『炎立つ』で共演した渡辺謙も、現在、軽井沢在住。交流はあるのだろうか。