陰謀論のギャグ的な要素を笑うことは危うい
カルチャーの担い手としてテレビをつくる矜持
大森の作品は、これまで必ずと言っていいほど、ネット上で大きな話題になっている。
「やっぱりテレビは、基本的に清廉潔白で完成されていて、“すごい食べやすい食べ物”のようだと思うんです。テレビでは、違和感があることは絶対に起こらない。その中で僕が作ろうとしている映像や違和感は、テレビの中ですごく異物になりやすい。
ちょっと余白をあけて、視聴者に補完してもらうというか、自分で考えてもらう。そういう余白があるから、SNS上で感想をつぶやいたり、周りの人に見てよって勧めていただいたりして、ありがたいことに話題にしていただいているのかなって思います」
テレビでフェイクドキュメンタリーを作ることの難しさや意義はどんなところにあるのだろうか。
「難しさは社内では評価されないってことですかね(笑)。フェイクドキュメンタリーは別に視聴率が取れるわけでもなければ、レギュラー放送のように継続できるものでもない。それはテレビがビジネスとして本来求めていることと乖離してしまっているんです。
それでも僕がフェイクドキュメンタリーを作っているのは、テレビはカルチャーの担い手だと思っていることが一番大きいかもしれません。テレビに映し出してきた様々なカルチャーに憧れてテレビ局に入ったので、いかにカルチャーの担い手としての矜持を持って作っていけるか、姿勢を曲げないことは大事なことだと思っています」
(後編に続く)
◆大森時生氏演出のイベント「テレ東60祭@なぜか横浜赤レンガ 祓除」が12月2日23時59分まで配信中。詳しくは以下リンクからご覧ください。
https://pia-live.jp/perf/2338219-005
【プロフィール】大森時生(おおもり・ときお)/テレビプロデューサー。1995年生まれ。2019年テレビ東京入社。『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(2021年)、『このテープもってないですか?』(2022年)、『SIX HACK』(2023年)など、テレビフェイクドキュメンタリーを数多く手がける。またお笑いコンビ・Aマッソの単独ライブ『滑稽』では企画・演出、アーティスト・キタニタツヤの『素敵なしゅうまつを!』のMVのプロデュース・演出も務めた。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
撮影/槇野翔太