大谷彰一郎医師

大谷彰一郎医師

 だが、翻って現代では腫瘍が小さい場合は一部だけを切り取る「乳房部分切除術」や、事前の検査に基づいてその人のがんのタイプに合った薬を使う方法、副作用をなるべく減らす「支持療法」などが発達した。広島市民病院ブレストケアセンター長を務め、2021年に大谷しょういちろう乳腺クリニック(広島県)を開業した院長の大谷彰一郎医師もこう話す。

「いまは治療を最小限に抑える『デエスカレーション』が乳がん治療のトレンドとなっています。なんでも手術して、ガンガン薬を使う『エスカレーション』とは逆に、なるべく手術を小さく、薬も減らしていくという時代です。

 2023年9月には、患者さんの乳がん細胞にある21個の遺伝子を調べ、再発リスクがどれくらいあるかを調べる『オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム』が保険適用となりました(対象はホルモン受容体陽性、HER-2陰性、リンパ節転移陰性か、転移があっても1〜3個以内の早期浸潤性乳がんの患者が対象)。このように、その人に合った『個別化治療』を選ぶための検査方法も進化しています。将来的には、手術をせずに治せる乳がんも出てくるでしょう」

 その流れの中で、現在注目されているのが、「経皮的ラジオ波焼灼療法」(RFA)だ。腫瘍の中に細長い電極針を刺し、電流を流すことで、腫瘍を焼き固めてしまう。肝がんなどで長く行われてきた治療法で、2023年12月に早期乳がんに対する保険適用が承認された。

 具体的には、大きさが1.5cm以下の単発の腫瘍で、腋窩(わきの下)リンパ節転移および遠隔転移を認めない「限局性早期乳がん」が対象となる。メスを入れないため、体の負担や精神的な苦痛を和らげることができると期待されている。RFAについて前出の増田医師が解説する。

「この治療は転移のリスクが低い非浸潤がん(周りに広がっていないがん)よりも、浸潤がん(周りに広がっているがん)により適しているのではないかと考えています。なぜなら、RFAは手術と違い、焼き残しがあるかもしれないからです。

 そのため非浸潤がんの場合は、確実に取り除ける手術の方がいいでしょう。一方、浸潤がんは焼き残しがあったとしても、乳がんの多くを占めるホルモン受容体陽性タイプなら、ホルモン治療薬で再発予防の補強ができます。

 いずれにせよ、RFAを受けた患者さんは、再発がないかどうか、マンモグラフィーやエコー、MRIなどの検査をこまめにしていく必要があります。その点が、心配性の人にはデメリットになるかもしれません。RFAは従来の手術に取って代わるというより、新たな選択肢が加わったとみるべきで、主治医と充分に話し合って、選択されることをおすすめします」

 現在は全国8施設(国立がん研究センター中央病院、国立病院機構東京医療センター、東京都立駒込病院、北海道がんセンター、群馬県立がんセンター、国立がん研究センター東病院、岐阜大学付属病院、岡山大学病院)で限られた人を対象に実施されている。

 薬物療法の分野も治療の細分化が進んでいる。乳がんは検査によって「ホルモン受容体が陽性か陰性か」「HER-2受容体が陽性か陰性か」「増殖力が強いかどうか」に基づき、5つのサブタイプに分かれるが、現在はそれに応じて、ホルモン療法を中心に行うか、抗HER-2薬(ハーセプチンなど)や抗がん剤(細胞障害性抗がん剤、分子標的薬など)を加えるかどうかを決めるのが、標準治療となっている。

 どの薬をどう使うのが最適であるかは、がんの進行度や体の状態に加え、患者の置かれている環境や価値観によっても異なり、特に、がんが進行して根治が難しい場合には、患者の考えを尊重することが重要となる。乳がんの薬物療法を専門とする、福島県立医科大学医学部 腫瘍内科学講座主任教授・佐治重衡医師はこう話す。

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