珠洲市。施設に突き刺さった車(2024年1月3日撮影)
町は悲しみで満ちていた。半壊した自宅を見て、道路で泣き続ける女性。「なにかしないととは思うのだけど……」と口にするが、唖然とするしかない男性。一見、被害が無いように見える家も、室内は倒れた家具などでぐちゃぐちゃになっていたり、土台が傾き歪んでいたりするという。このほか地面につきそうなほど垂れ下がっている電線も多数。「穴水で被害を受けていない家なんてないんじゃないか。何年で復興できるかわからない」(60代男性)という過酷な現実があった。
玄関前で見知らぬ人がウロウロ
一部の住民は被害が少なかった金沢市に避難しているというが、まだ町にとどまる人も多くいる。前述のとおり道路は通行止めが多く、乗用車を失った住民も少なくない。高齢の家族がいる家庭も多いという。だが、住民が町外避難を躊躇せざるを得ない理由の1つに、ある恐怖が──。50代女性はこう語る。
「被災地に火事場泥棒が入ってきているようなのです。私の友人の話なんですが、1月2日の深夜、家に帰れず穴水町で車中泊していたときに、車のドアをガチャガチャと開けようとする音がして起きたと。中に人がいないものだと思っていたのか、飛び起きると顔が見えて、そのまま走って逃げていったそうです。この辺りの人なら顔がわかるのですが見たことのない顔だったらしく、そういう人が入ってきているんですね。
そのほかにも、深夜の時間帯に崩れかけた家の玄関前で見知らぬ人がウロウロしていて、車のライトで照らすと逃げていったという話も聞きました。私たちもお風呂に入りたいし、水が欲しいから金沢市内に行きたいんですが、行ったら家はどうなるのか、荒らされてしまうんじゃないかという恐怖がある。だからここを離れられないんです」
