第5話「隠しごとしちゃダメですか?」は23日放送(TBS番組公式サイトより)
「娘に言わないことは言わない。娘にしないことはしない(中略)それが俺たちのガイドライン」
こちらもミュージカルシーンで市郎が歌ったセリフ(第3話)。昭和に戻った市郎は娘の純子(河合優実)が、視聴者参加型の番組に出演すると聞いて、観覧に出かける。そこで共演のセクシー女優には“ポロリ”を期待するのに、娘にはできない。モヤモヤする市郎。そこに向坂サカエ(吉田羊)の「他人の娘はやらしい目で見るくせに、自分の娘が好奇の目にさらされるのは許せないのね」という一言が、引き金になって、市郎はハッとする。
令和のテレビは視聴者の反応を気にしすぎて、規定があるわけでもないのに、炎上しそうな表現を極力控えるようになった。市郎の大好きな深夜のお色気番組も乳首も、法的な規制が引かれたわけではなく、自然と消えていったことをご存知だろうか。
その半面、インターネットやSNSを通じて、一般人による全く規制のない過激な写真や動画が公開されている。そこには嬉しそうに群がる男性たちもいる。あきらかに行きすぎ同士が矛盾を招いている。昭和で「チョメチョメ」と騒いでいた頃のほうが、まだ健全ではないかとさえ思う。
この状況を一刀両断したのが、今回のセリフだ。聞いていて「あ、そうか」と、私も溜飲が下がった。クドカンの発した新・ガイドラインに対して、女性たちもSNS上で拍手喝采だった。できれば男性にも理解してほしいと思う。
令和vs昭和の価値観、モラル。クドカンはこれまでの作品でも相反する要素を対比させて、物語を描くことが多く見られた。例えば2014年に放送された『ごめんね青春!』では、カトリック系の女子高vs仏教系の男子校。『俺の家の話』(すべてTBS系・2021年)では二項対立に収まらず、能、プロレス、介護問題、発達障害を持つ子どもの育児と、4項目もドラマに反映された。これらの相容れない要素が最終回になると、全て丸く収めるのが、クドカンの脚本における妙である。
『ふてほど』前半戦の放送を終えて見えてきたのは、やりすぎた令和に対する、昭和からの警鐘である。他にもまだ紹介したいセリフはたくさんあったけれど、文字数の都合上、悩み抜いて4つを選んだ。放送は中盤を折り返したところなので、今後も名言が飛び出すことは間違いなし。機会があればぜひ、第二弾で紹介したい。果たして、最終回にはどんな結末が待っているのか。
【プロフィール】
小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、編集、ライター、プロモーション業など。著書に『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 つながる機能が増えた世の中の人間関係について』(WAVE出版)、『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)がある。静岡県浜松市出身。X(旧Twitter):@hisano_k