大正最初の4年間(1912~1915年)

大正最初の4年間(1912~1915年)

 ちなみにアメリカでは、海軍長官や陸軍長官も軍人経験が無い人が就任することができる。それが文民統制を基本とする民主国家の形なのだが、そうした民主政治や政党政治の長所をまったく認めない山県有朋は、苦々しく成り行きを見守っていたはずである。じつは、憲法の規定にも無かった軍部大臣現役武官制を一九〇〇年(明治33)に定めたのは、当時首相だった山県なのである。

 政党政治というのは衆愚政治だと考えていた山県は、そうした衆愚政治の悪影響が軍隊に及ばないようにと軍人勅諭を作らせ軍部大臣現役武官制を定めたのだが、山県の後輩たちはそれを逆手に取って「国家に陸軍の方針を邪魔させない」という形を作り、それが結局大日本帝国を滅ぼすことにもなった。だから何度も述べたが、私は山県有朋を政治家としては評価しない。伊藤博文のほうがはるかにマシ、というよりまさに「月とスッポン」であろう。しかし山県はそういう考えの持ち主であるがゆえに、間違い無くこのような「亡国内閣」は潰さねばと思っただろう。

 一方、中国(中華民国)では革命を完全なものにするため孫文が「清朝を廃止し、共和国を実現する」ことを条件に、大総統の座を軍閥の巨頭袁世凱に譲った。袁世凱はあきらかにこのころから新しい王朝を建て皇帝になる野望を抱いており、当初は孫文との約束どおり清朝を廃絶に追い込んだものの、中国の民主化を進めようとしたリーダー・宋教仁を暗殺し、独裁権力を固めた。

 それに対して孫文の影響力を受けた人々が袁世凱を倒そうとして兵を挙げたが(第二革命)、強大な軍事力を誇る袁世凱にあっという間に鎮圧された。ここで日本国内にも争いが起こった。とりあえず袁世凱を中華民国の代表者として認め外交的手段によって関係を構築していくか、あくまで孫文ら革命勢力を応援して中国の内紛に介入し、民主的政権の成立をめざすか、である。

 欧米列強は、とりあえず袁世凱の中国を認める姿勢を取った。独裁国家のほうがいろいろと取引がしやすいからだろう。日本は初めどちらにするか迷っていた。問題は、その過程で革命を応援する立場を取っていた日本人が袁世凱軍に殺されるという南京事件が起こったことである。山本内閣は、とりあえず袁世凱政権と外交交渉で問題を解決しようとした。そうするのが国際的ルールだからだ。

 しかし日本のマスコミ、つまり日比谷焼打事件以来「宗教新聞」に成り下がった新聞は、「英霊の死を無駄にしてはならない」とばかりに、中国には強硬姿勢を取り軍事的に物事を解決せよ、と煽りに煽った。もっとも過激だったのが『東京日日新聞』(のちの毎日新聞)で、「バイカル博士」戸水寛人など過激な論者の言説を支持し、「膠州湾事件におけるドイツのように軍隊を送って解決すればいいではないか」という論陣を張った。

 あきらかにこの論調に影響された右翼青年が、外交交渉によって事態を収拾しようとしていた外務省政務局長・阿部守太郎を自宅で待ち伏せて暗殺した。注意すべきは、これ以降陸軍や強硬派に反対すると「殺されるかもしれない」という怖れが日本人の心の中に生まれた、ということだ。

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