坂本さんが代表・監督を務めるTYOは2015年に結成されたオーケストラで、東日本大震災時に岩手、宮城、福島に住んでいた小学生から大学生約100人がメンバーだ。2016年から毎年3月に定期演奏会を開き、『戦場のメリークリスマス』や『ラストエンペラー』など、坂本さんの曲を演奏してきた。震災を風化させないとの思いから手塩にかけて育てたTYOについて、坂本さんはNスぺでこう語った。
《むげにできない、絶対に。だから東北の子供たちのオーケストラも簡単にはやめられないし、やっぱり切れないですよ、僕は》
2023年3月、亡くなる直前の坂本さんは病院でTYOの定期演奏会をスマホを介して生視聴した。病のため、2年連続で参加を見送らざるを得なかった。そのときの様子もNスぺで公開された。頬がこけ、酸素マスク姿で弱々しくベッドに横たわる坂本さんは、演奏が始まると目を閉じて、まるで指揮するかのように右腕をゆっくりと振り始めた。
この演奏会では、坂本さんが作った曲に合わせて、震災時小学5年生だった男の子が作った「ありがとう」という詩が朗読された。さまざまな復興支援に感謝する言葉が続いたのち、最後の一節で「おじいちゃん 見つけてくれてありがとう さよならすることができました」との言葉が読み上げられると、坂本さんは目を見開いて「これはやばい」とつぶやき、顔をクシャクシャにして必死に涙をこらえた。
生前、「東北ユースオーケストラを見守ってほしい」と常々話していた坂本さん。その思いを継ぎ、4月13日にはETV特集『未来へのETUDE 坂本龍一監督から東北ユースオーケストラへ』(NHK)が放送された。
「坂本さんという道しるべを失ったオケの子供らが胸の内を語り合い、震災を風化させないための新たな一歩を踏み出す内容でした。坂本さんがNHKに『自分に何があってもTYOを追いかけてほしい』と託して実現した番組で、いわば坂本さんの“遺言”です。亡くなって1年、オケの子供たちは今後も坂本さんの志を受け継ぎ、音楽とともに復興の道を歩んでいくでしょう」(テレビ局関係者)
日本が生んだ偉大な音楽家のラストデイズを映し出したNスぺ。実は再放送がなくなったのは突発的な理由からだったという。
「当日、日米首脳共同記者会見のニュースが入り急きょ延期になったそうで、後日改めて再放送されました」(別のテレビ局関係者)
Nスペでは、YouTubeでひたすら雨音を聴く坂本さんの姿が映し出された。闘病中、音楽を聴く体力がなくなった坂本さんは雨の音を好んだからだ。今年3月28日、坂本さんの一周忌にも雨が降った。空が教授の死を悼んでいた。
※女性セブン2024年5月2日号