いい夫婦の日「パートナー・オブ・ザ・イヤー2003」に選ばれた(妻・安藤和津さんと)

いい夫婦の日「パートナー・オブ・ザ・イヤー2003」に選ばれた(妻・安藤和津さんと)

義母を介した経験をもとに向かった役作り

 奥田はとことん役にのめり込み、リアルを求める俳優であることで知られる。今作を手がけた関根光才監督は、2019年に公開された映画『洗骨』での、奥田の演技に心打たれ、是が非でもとオファーしたという。沖縄の離島に残る、死者の骨を洗うという風習と、家族の絆を描いた作品で、奥田は古ぼけた肌着姿でこれまでにない、しょぼくれた顔を見せていた。

「今回は、認知症の老人をやることになって、まず記憶を辿ったのは、義母(妻の安藤和津さんの母)の介護のことでした。結婚後から一緒に暮らしていたので、症状が出始めてから看取るまで、俳優をやりながらずっと世話をした。それこそ下の世話もしましたけど、僕は嫌じゃなかったんですよ。それこそ排泄物を、ボーンと壁に投げつけるようなこともあったりしましたけどね。

 抱える体勢で顔を近づけたら『やめて、不潔!』とか言われたときは、ショックを受けたりもしました。誠心誠意やっているのにって。でもそれが認知症の現実なんです。……かみさんはもっと凄絶だったと思います。すっかり鬱の状態になってしまっていた」

 義母の介護の日々を思い出しつつ、奥田はさらに富山県のとある施設、2か所を訪問して、認知症の老人たちと終日、向き合いもした。

「歩き方から何から気づくことがたくさんあって、それは役を体現するにあたって強烈なプラスとなりました。撮影中、僕は寝ても覚めても、家でも外でも一日中、役に入っているから、もう本当にすっかり爺さんになっていましたよ。体も気持ちもね」

 尋常でない役への取り組みは、たとえ虚構の世界とはいえ、嘘をつきたくないからだ。たとえば今作には、畳の上で失禁してしまうシーンもあった。ダンディーな俳優のイメージなど、そこには微塵もなく、「(俳優としての)覚悟、というものですか」と問うと、目に力がこもった。

「羞恥心、プライド、僕はゼロですから。俳優として引き受けたなら、その人間になるだけ。ただ、自尊心だけは持っている」

 なんと潔い素敵な言葉だろうか。

「粗相をして、風呂に入れられるシーンもあった。監督が下着を着けてくださいと。『いや、ばかやろう、違うよ。気を使うといい作品にならねえぞ』って僕は言ったんです。磨りガラスの向こうから撮っていたって、着けているのといないのとでは、まったく違ってしまう。作りごとになる。本番を撮ったらやっぱり『脱いでいただけますか』と。脱ぐと一発OKとなった。カメラは本当のことを映し出してしまうんです」

第2回つづく

【プロフィール】
奥田瑛二(おくだ・えいじ)/1950年生まれ。1979年、映画『もっとしなやかにもっとしたたかに』で初主演。熊井啓監督の『海と毒薬』(1986年)で毎日映画コンクール男優主演賞を受賞。『千利休・本覚坊遺文』(1989年)で日本アカデミー主演男優賞を受賞。『棒の哀しみ』(1994年)ではキネマ旬報など8つの主演男優賞を受賞。2001年『少女~an adolescent』で映画監督デビュー。『長い散歩』(2006年)でモントリオール世界映画祭グランプリを受賞。私生活では、1979年にエッセイストの安藤和津さんと結婚。長女・桃子は映画監督、次女・サクラは俳優。画家、俳人としての活躍も知られ、昨年、夏井いつきさんとの対談本『よもだ俳人 子規の艶』を発売。

◆映画『かくしごと』あらすじ
絵本作家の千紗子(杏)は、長年絶縁状態にあった父・孝蔵(奥田瑛二)が認知症を発症したため、田舎に戻ってしぶしぶ介護を始めることになった。他人のような父親との同居に辟易する日々を送っていたある日、事故で記憶を失ってしまった少年を助けた千紗子は、彼の身体に虐待の痕を見つける。少年を守るため、千紗子は自分が母親だと嘘をついて、一緒に暮らし始めるが……。

6月7日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

取材・文/水田静子 撮影/篠田英美 ヘアメイク/田中・エネルギー・けん

※女性セブン2024年6月13日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
保護者責任遺棄の疑いで北島遥生容疑者(23)と内縁の妻・エリカ容疑者(22)ら夫妻が逮捕された(Instagramより)
《市営住宅で0歳児らを7時間置き去り》「『お前のせいだろ!』と男の人の怒号が…」“首タトゥー男”北島遥生容疑者と妻・エリカ容疑者が住んでいた“恐怖の部屋”、住民が通報
NEWSポストセブン
モデル・Nikiと山本由伸投手(Instagram/共同通信社)
《交際説のモデル・Nikiと歩く“地元の金髪センパイ”の正体》山本由伸「31億円豪邸」購入のサポートも…“470億円契約の男”を管理する「幼馴染マネージャー」とは
NEWSポストセブン
学業との両立も重んじている秋篠宮家の長男・悠仁さま(学生提供)
「おすすめは美しい羽のリュウキュウハグロトンボです」悠仁さま、筑波大学学園祭で目撃された「ポストカード手売り姿」
NEWSポストセブン
モデル・Nikiと山本由伸投手(Instagram/共同通信社)
「港区女子がいつの間にか…」Nikiが親密だった“別のタレント” ドジャース・山本由伸の隣に立つ「テラハ美女」の華麗なる元カレ遍歴
NEWSポストセブン
米大リーグ、ワールドシリーズ2連覇を達成したドジャースの優勝パレードに参加した大谷翔平と真美子さん(共同通信社)
《真美子さんが“旧型スマホ2台持ち”で参加》大谷翔平が見せた妻との“パレード密着スマイル”、「家族とのささやかな幸せ」を支える“確固たる庶民感覚”
NEWSポストセブン
高校時代の安福容疑者と、かつて警察が公開した似顔絵
《事件後の安福久美子容疑者の素顔…隣人が証言》「ちょっと不思議な家族だった」「『娘さん綺麗ですね』と羨ましそうに…」犯行を隠し続けた“普通の生活”にあった不可解な点
デート動画が話題になったドジャース・山本由伸とモデルの丹波仁希(TikTokより)
《熱愛説のモデル・Nikiは「日本に全然帰ってこない…」》山本由伸が購入していた“31億円の広すぎる豪邸”、「私はニッキー!」インスタでは「海外での水着姿」を度々披露
NEWSポストセブン
優勝パレードには真美子さんも参加(時事通信フォト/共同通信社)
《頬を寄せ合い密着ツーショット》大谷翔平と真美子さんの“公開イチャイチャ”に「癒やされるわ~」ときめくファン、スキンシップで「意味がわからない」と驚かせた過去も
NEWSポストセブン
生きた状態の男性にガソリンをかけて火をつけ殺害したアンソニー・ボイド(写真/支援者提供)
《生きている男性に火をつけ殺害》“人道的な”窒素吸入マスクで死刑執行も「激しく喘ぐような呼吸が15分続き…」、アメリカでは「現代のリンチ」と批判の声【米アラバマ州】
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン