スポーツ

「三笘の1ミリ」「マラドーナの神の手ゴール」は“ビデオ判定の有無”が生んだ? それでもサッカー審判が「機械だけには任せられない」理由

ゴールラインを割りそうなボールに走り込む三笘薫(右手前)。ゴール後のビデオ判定は「三笘の1ミリ」と呼ばれる(時事通信フォト)

ゴールラインを割りそうなボールに走り込む三笘薫(右手前)。ビデオ判定でその後の田中碧のゴールが認められた(時事通信フォト)

 2010年のサッカーW杯南アフリカ大会では4試合で主審を務め、2014年のブラジル大会では日本人として初めて開幕戦の主審を務めたJFAプロフェッショナルレフェリーの西村雄一氏は、他の競技と同様に導入が進む「ビデオ判定」について「審判ではなく選手を守るためにある」と断言する。西村氏に、スポーツを長年取材する鵜飼克郎氏が聞いた。(全7回の第7回。文中敬称略)

 * * *
 あらゆるスポーツで導入されつつあるのが映像だ。サッカーでも2018年W杯からVARと呼ばれるビデオ判定が導入された。ピッチとは別の場所で複数のアングルから試合映像を確認する、「主審をサポートする審判員」という位置づけだ。

 VARはあらゆるシーンに適用されるわけではない。介入する対象は「得点かどうか」「PKかどうか」「レッドカードかどうか」「(警告・退場の)選手間違い」の4項目と、主審が確認しきれなかった重大な事象のみで、主審の認識と映像に大きな違いがあった時にマイクを通じてVAR担当審判員から進言される。その進言がそのまま判定となるわけではなく、主審がピッチ脇のモニターで映像を確認するなどして最終決定とする。

 監督の異議申し立てを受けて検証される野球の「リクエスト」や、選手がアウト・イン判定の確認を求めるテニスの「チャレンジ」とは、その点が大きく異なる。

 FIFA W杯南アフリカ大会(2010年)やブラジル大会(2014年)など数々の国際試合で主審を務め、現在はJFA(日本サッカー協会)プロフェッショナルレフェリーとして活躍する西村雄一はこう言う。

「私たちが明らかな間違いをした場合には訂正できるほうがいい。本来、それが判定されるべき結果だからです。審判の判定は人間がその場面を見られる範囲に基づいていますが、別の角度やスローリプレイで見直すことができれば、より正しい判定に導けます。少しだけ時間を戻せるシステムなんです」

試合後、FIFAはTwitter(現X)の公式アカウントで「三笘の1ミリ」を説明した(時事通信フォト)

試合後、FIFAはTwitter(現X)の公式アカウントで「三笘の1ミリ」を説明した(時事通信フォト)

 2022年のW杯カタール大会での「三笘の1ミリ」(日本対スペイン)は、まさしくVARでなければ確認できなかったプレーだ。逆にいえば、サッカー史の“伝説”となっているアルゼンチンの英雄マラドーナの「神の手ゴール」(1986年W杯メキシコ大会。アルゼンチン対イングランド)は、VARがあれば「審判を欺こうとする反則(ハンド)」とされていただろう。

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン