積水ハウス地面師詐欺事件では15人以上の逮捕者を出した。2018年10月、地主に成り済ました「地面師」の女を乗せ、新宿署に入る車(時事通信フォト)

積水ハウス地面師詐欺事件では15人以上の逮捕者を出した。2018年10月、地主に成り済ました「地面師」の女を乗せ、新宿署に入る車(時事通信フォト)

 本人確認についても「売主側企業の司法書士が本人確認のために質問するシーンがあったが、せいぜい聞くのは名前と生年月日くらい。どこで買い物をするのか、スーパーはどこに行くのか、なんて聞くことはまずない。リアル感を出しているだけだ。ピエール瀧が演じる元司法書士役のように、詐欺師側の人間が高圧的な態度に出てまくしたてるようなこともない」(Y氏)。

 ドラマではなりすまし役を呼び、綾野剛らが教育するシーンがあるが、「なりすましをスカウトした手配師以外は当日、現場でなりすましと会うだけだ。積水の事件で、カミンスカスもなりすましの女とは当日、現場で初めて会ったはずだ。そうすればなりすまし犯が捕まっても、他のヤツらは当日会っただけなので、あれがなりすましとは知りませんでしたと言い逃れられる」(Y氏)。

 ドラマを観た視聴者は、地面師は凄腕の詐欺師集団のような印象を受けただろう。だがY氏は「今の地面師はただの詐欺師」と言い切る。「積水ハウスの事件もそうだが、彼らは自分たちの存在がわからないよう用意周到に仕掛けていく地面師ではない。カメラで写真を撮られたり、契約の場に出て行ったり、顔をさらしている。カミンスカスがいい例だ。逮捕前に名前と顔がメディアに知られ、高跳びするために空港で待っているところをメディアに報じられただろう。偽造したとわかる書類を相手方に渡して、証拠となる物も沢山残している」という。

 もともと「地面師」は、法務局にある不動産の登記簿を偽造した者のことをそう呼んでいたとY氏はいう。不動産登記簿がコンピューター化される2005年以前の話だ。

「当時の登記簿は紙帳簿のバインダーに保存されており、誰もが閲覧可能だった。地面師は自ら法務局に出向き、バインダーから登記簿の原本を持ち出し、同じ字体のタイプライターで所有権の移転登記を勝手に行う。登記を行った登記所の印鑑を偽造して押印し、翌日朝一で、その原本を元のバインダーに戻す。その後、何食わぬ顔をして窓口で交付申請すれば、職員が偽造した謄本を正式なものとしてあげてくれる」。昔は防犯カメラもないため、このような手口が成立していたのだ。

「なりすまし」もそうやって所有者となり、印鑑証明等を偽造して偽の不動産売買をもちかける。不動産業者も、売主から不動産を売りたいからと頼まれた善意の第三者を装えば、事件が発覚しても逃げやすい。

「カミンスカスたちのような地面師は、捕まるのが前提の確信犯。だから証拠が残っている。本当の地面師は自分が詐欺に関わったという証拠は残さないものだ」

 かつての地面師はいう。「作り物だからこそ『地面師たち』は面白い」。

積水ハウスが取得しようとして約55億円をだまし取られた品川区西五反田の土地。2018年(時事通信フォト)

積水ハウスが取得しようとして約55億円をだまし取られた品川区西五反田の土地。2018年(時事通信フォト)

関連キーワード

関連記事

トピックス

11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(右/読者提供)
【足立区11人死傷】「ドーンという音で3メートル吹き飛んだ」“ブレーキ痕なき事故”の生々しい目撃談、28歳被害女性は「とても、とても親切な人だった」と同居人語る
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
グラビア界の「きれいなお姉さん」として確固たる地位を固めた斉藤里奈
「グラビアに抵抗あり」でも初挑戦で「現場の熱量に驚愕」 元ミスマガ・斉藤里奈が努力でつかんだ「声のお仕事」
NEWSポストセブン
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
日本体育大学は2026年正月2日・3日に78年連続78回目の箱根駅伝を走る(写真は2025年正月の復路ゴール。撮影/黒石あみ<小学館>)
箱根駅伝「78年連続」本戦出場を決めた日体大の“黄金期”を支えた名ランナー「大塚正美伝説」〈1〉「ちくしょう」と思った8区の区間記録は15年間破られなかった
週刊ポスト
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン