芸能

「嘘」自体を楽しむフェイクドキュメンタリーの世界 意図的に仕込まれた“余白”を視聴者が考えてみんなで補完していく“共犯関係”

大きな反響を集めたフェイクドキュメンタリー『イシナガキクエを探しています』(2024)(写真提供:テレビ東京)

大きな反響を集めたフェイクドキュメンタリー『イシナガキクエを探しています』(2024)。写真提供/テレビ東京

 テレビでは、「嘘」は「やらせ」として明確に禁忌とされてきた。しかし昨今、意図的に「嘘」を前提にしながら事実であるかのように見せる「フェイクドキュメンタリー」という手法の番組が大きな支持を集めている。“テレビっ子”ライターで『フェイクドキュメンタリーの時代』(小学館新書)を上梓した、てれびのスキマ(戸部田誠)氏が現象をレポートする。

 * * *
 フェイクドキュメンタリーとは狭義では、ドキュメンタリーの手法で描いたフィクションだ。その表現が拡大し、テレビや映画などの映像メディアはもちろん、活字メディアやゲーム、イベントに至るまで多種多様な作品がつくられ、今や「一大フェイクドキュメンタリーの時代」と言っても過言ではない。

 そんな日本のフェイクドキュメンタリーの源流のひとつだといえるのは、1970~1980年代に『水曜スペシャル』(テレビ朝日系)で放送された「川口浩探検隊」シリーズだろう。ジャングルなどの秘境で、猛獣やUMAを探索するというドキュメンタリー。どんな奇想天外なものを見せてくれるんだとワクワクしつつ、デタラメな部分にツッコみながら見ていた人も多かったが、やがて、そのデタラメは「やらせ」として許されなくなっていった。演出に巧みに仕込まれた「嘘」を制作者は隠さなければならなくなったし、「嘘」がバレたら視聴者から非難されるようになった。

 そんななか、作り手があえて「嘘」であると明らかにすることで、視聴者がその「嘘」自体を楽しむ視聴態度が確立されていく。2003年から始まった『放送禁止』シリーズ(フジテレビ系)が記念碑的な番組だ。

 第2話の『放送禁止2 ある呪われた大家族』は、ある「大家族」に密着したドキュメンタリーを模した回だ。一見、通常のドキュメンタリー作品のように見えるが、注意深く見続けると、表面的に描かれた仲睦まじい大家族の物語とは別の“真実”が浮かび上がってくる。父親が子供たちを虐待していることを示唆する描写や、家族が父親の殺害計画を準備していると思わざるを得ない描写が断片的に現われるのだ。

 普通のドキュメンタリーだと思って見ていた視聴者は番組の最後に訪れる“どんでん返し”で騙される快感に浸り、ハッキリ分からないものを分かりたいという欲求に溺れることになる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン