電撃解雇直前の水原被告
水原被告にとって「最も手をつけてはいけないカネ」
大王製紙で社長業をやりながら、井川は週末になるとマカオやシンガポールへ通い、月曜日朝にはなに食わぬ顔で出勤した。カネが欲しい、あるいは勝ったカネで何かを買いたいという物欲があるわけではない。ただ、それまでの負け分を取り返すために、カジノに向かったという。
それはシンガポールでのこと。手持ちが残り2万5000ドル(当時のレートで約150万円)のチップ1枚だけになった。そこから逆転劇を果たし、わずか1時間で23億円に化けたという。ところが井川は、そこで止めなかった。
「その10時間後に全部スッてしまいました。でも、そういう人間だから150万円を23億円にできるんです。種銭100万円が500万円に増えた時点で、それでレクサスを買おうと考えている人間はそもそも500万円にできません。
500万円になろうが1000万円になろうが、23億円になろうがもっと増やしてやろうとなるか否か。そもそもお金が欲しくてやっているわけではないんです。今まで負けて返済しなきゃいけないカネもあるから、それを取り返すためにまた駆り立てられる」
そうして賭け続けた結果、井川は106億円という“天文学的数字”の金を溶かしてしまったのである。その心境を井川はこう説明する。
「例えるなら、主婦の方が100万円をスってしまうのと同じだと思います。ギリギリの金額っていうのは人によって違いますよね。私にとっては、それが100億円だっただけのことなんです。例えばパチンコにハマってへそくりを使い、消費者金融からも借りて、それ以上やったら夫にバレてしまう、そういう状況の主婦にとっての100万円と変わらない」
その人にとって限界を超えた世界で勝負するヒリヒリ感が、井川のようなギャンブラーたちを虜にしてしまうのだろう。
水原被告の場合も、それは同じだったのかもしれない。アメリカ連邦検察によると、水原被告は違法の胴元を通じて少なくとも1万9000回の賭けを行ない、少なくとも約220億円勝ち、少なくとも約284億円負けたという。
水原被告にとって最も「手をつけてはいけないカネ」、それは相棒である大谷の財産だった。被告はそれを種銭に、自らの限界を軽く超える金額を賭け続け、泥沼にハマったのだ。
