外国人労働者同士の“ネットワーク”もある(イメージ)
ところが、である。
コロナ禍が落ち着いて、都市部の飲食店が元気を取り戻し始めたとたん、彼らはほぼ全員辞めてしまった。もちろん、賃金の高い大都市の職場に移っていったのだ。
あんなに「一生懸命働きます」「働かせてください」と言っていたのに。
より賃金の高い、条件のいいほうに人が流れてしまっただけなら、仕方ないと思ったかもしれない。社長がショックを受けたのは、彼らが辞めていくときに嘘をついたことだった。
ベトナム人たちが、Facebookで「交換」していた情報とは
退職するとき、彼らが持ち出す理由は「実家の父親が倒れました」「母親が倒れました」「親戚が倒れました」の3択。絶対にこの3通りのどれかだった、という。
もちろん、だから嘘だという確証はないが、揃いも揃って同じような理由を持ち出されれば、嘘だと思わないほうがおかしい。
その後、彼らの「嘘」を裏付ける根拠も見つかった。
ベトナム人たちが一番よく使うSNSは、Facebookである。日本で働くベトナム人たちは、Facebook上でグループを作って情報交換をしている。
グループ内では、各自が給与明細をバンバンアップしている。「俺はこんなにもらっている」「いや俺のほうがもらっている」という競争、なのかどうかはわからない。
ただ、Facebookを見ているベトナム人たちが「もっといい条件で働いている同胞がいるんだ」と常に意識していることは確かだ。隣の芝は青い。「自分もそっちで働きたい」と思うのは当然である。
こうして転職を考え始めた者がいるかと思えば、アドバイスを投稿する者もいる。
「今の職場を辞めるなら、スムーズに退職できる言い回しがあってね」
もうおわかりだろう。「家族が倒れた」「実家で不幸があった」と言え、とアドバイスしているのだ。ごていねいに「日本人はその手のお涙頂戴に弱いから」という解説つきだったりする。ついでに、こうやって転職を後押しして、手数料的なものをせしめようとする輩もいる。
こうした事情まで知ってしまった社長が、心に深い傷を負ったのは言うまでもない。
(第2回に続く)
『日本人が知らない 外国人労働者のひみつ』(白夜書房)

