総選挙での民主党圧勝、自民党大敗を報じる各紙の都内最終版。2009年8月31日(時事通信フォト)

総選挙での民主党圧勝、自民党大敗を報じる各紙の都内最終版。2009年8月31日(時事通信フォト)

 日本年金機構はかつて社会保険庁(社保庁)と呼ばれた。筆者も何人か70代、80代の元社保庁の職員を知っているが彼らの口は固いし全員が「自分は悪くない」「もう過ぎた話」とだけを本気で言っている。

 職員全体による組織的かつ計画的な怠慢行動によって消えた年金記録、それを主導した労働組合幹部らによるヤミ専従、次から次へと汚職で逮捕される幹部職員、不正閲覧と特定の受給者に対する不正便宜に手を染める末端職員、そして3682億円もの損失を出した社保庁による保養所「グリーンピア」経営の失敗で2009年に廃止され、現在の日本年金機構となった。実質的にほとんどの職員がそのまま移る形となったことも批判された。

 おまけに社保庁は年金保険料を長官の交際費や職員のゴルフ道具、マッサージ機、プロ野球観戦などにも流用していた。とてつもなく無茶苦茶で若い人には戦前の話かと思う向きもあるかもしれないが21世紀まで続いた話である。というかまだ発覚(2004年ごろ)から20年そこらの事件である。

 この「消えた年金問題」や「公的年金流用問題」など一連の不祥事によって2007年の参院選で自公連立の安倍晋三内閣(第1次)は小沢一郎民主党に惨敗、2009年の衆院選でも自公連立の麻生太郎内閣が鳩山由紀夫民主党に惨敗で自民党は下野する。

 下野の理由はそればかりではないが、この年金問題が(当たり前の話だが)一般国民の怒りを買ったと政府および厚生労働省も認めている。「政権交代の原動力」という鳩山由紀夫首相の言葉もあった。

 その民主党も結局のところ親玉である財務省に勝てなかったわけだが、この国の年金制度とは冒頭にあるような綺麗事を並べた私利私欲の連中による胴元の目的外利用でしかなかった現実がある。

 かつての社保庁の幹部やベテラン職員も多くは70代や80代、知る限り、悠々自適にたいそうな家を子や孫のために建て替えたり高級旅館をはしごで旅行三昧の毎日を送ったりで逃げおおせている。当時の社保庁の職員は約2万人で正規職は1万3000人、みなさんの知る年金暮らしの高齢者の中にもいるかもしれない。まず名乗らないだろうが。

 筆者は『財務省が約6000億円をいまも借りパク状態 自賠責保険積立金を2024年度も完済せず、「100年後に返す」で誰が納得するのか』でも書いたが、この国の社会倫理はこうした連中によって破壊され「金だけ今だけ自分だけ」の現在に至る。現在の「老人憎し」は以前のような「老人憎し」と性質が異なる。無関係な高齢者には可哀想だが「社会的扶養」「国民の共同連帯」を破壊したのはこの国の歴代の政治家や官僚どもである。

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