岩崎宏美(いわさき・ひろみ)/1958年、東京都生まれ。1975年に『二重唱(デュエット)』でデビュー
横山:どんな答えが返ってきたんですか。
岩崎:「僕は友達のラブレターの代筆をしてたんだ」って答えたんです。しかも、相手の名前を聞くだけで、それ以外の情報は一切もらわない。すべて想像力だけで恋文をしたためていた。
横山:それが作詞における、あのイマジネーションを培ったんですね。
岩崎:阿久さんに詞を書いていただいた『思秋期』には、特別な思い入れがあって……。
横山:珠玉の名曲です。
岩崎:あのシングルをリリースしたのは、19歳を迎える少し前でした。実は私、芸能界入りするにあたって、父から猛反対を受け「20歳までやらせてください」という約束をしていたんですね。
横山:そんな取り決めがあったんですか。
岩崎:当時は父と約束した20歳が近づいていたし、この曲の歌詞には〈卒業式〉という言葉が出てくる。だから、レコーディングしながら「もうすぐやめなくちゃいけないのかな」と感極まってしまい、涙が止まらなくなっちゃったんですよね。
横山:ご自分の境遇と、リンクしたんですね。
岩崎:ところが、この曲を聴いてから、父は「歌手をやめなさい」とは一切言わなくなりました。
横山:歌手として生きることを認めてくれたと。『思秋期』には、お父様の心をも打つ何かがあったんでしょうね。
岩崎:ええ。まさに転機となった一曲です。
