貴乃花は“令和の新横綱”大の里をどう見ているのか(撮影/五十嵐美弥)
大相撲が激動の最中にある。2場所連続優勝を果たした大の里(24)の横綱昇進という慶事に沸く一方、元横綱・白鵬(40)の宮城野親方が相撲協会に退職届を提出し、受理された。荒れに荒れる令和の角界を「平成の大横綱」はどう見ているのか──。【貴乃花の直言インタビュー・前後編の前編】
14勝の価値、1敗の課題
数々の名勝負で空前の大相撲ブームを巻き起こした第65代横綱・貴乃花光司氏(52)。幕内最高優勝22回、横綱としての勝率は8割を超える「平成の大横綱」だ。
先の5月場所において14勝1敗で2場所連続優勝を果たし、第75代横綱への昇進を決めた大の里(24)についてはまず、「伸び伸びやっていたなという印象ですね」と評した。
「とにかく相撲の基本である体を活かした攻めを貫いた。横綱昇進への緊張がある場所で14連勝というのは、価値のあることだと思いますね」
印象に残った取組としては、千秋楽の結びの一番で横綱・豊昇龍(26)に敗れた相撲を挙げた。取組の動画を見ながら、「立ち合いはもろ手で当たって土俵際まで押し込んでいます。ここで腰を入れ直していけば、(豊昇龍に)右へ回り込まれる形にはなっていなかった」と解説する。
「全勝を意識して早く勝負をつけようとしたのが裏目に出ました。焦ったわけではないでしょうが、綱取りの場所で横綱になれない力士が大半ですから、それを乗り越えて力を使い果たしたのではないか。この一番から課題が見えますね。まだ伸ばすところがあるという証明になったと思います」
全勝での横綱昇進を逃した大の里に対し、貴乃花氏は1994年11月場所での2場所連続となる全勝優勝により、文句なしの昇進を決めた。その時の千秋楽での横綱・曙との一番は、名勝負として語り継がれてきた。
立ち合いから攻め込むも凌がれて、小手投げで何度も振られる。だが、貴乃花の下半身は崩れない。膠着状態の後に最後の力を振り絞って押し込んでくる相手に対して土俵際で上手投げを打ち、213キロの巨体を転がした。49秒の死闘だった。
「もうクタクタでした。千秋楽の土俵に上がることさえ精一杯でしたが、それでも自分を奮い立たせた。私の場合、直前の9月場所で全勝優勝したが(横綱昇進を)見送られたんですよね。11月場所は14日目に武蔵丸さんに勝って優勝が決まったものの、記者の皆さんに対して“(昇進は)私が決めるんじゃないのでわかりません”と言ってしまった。2場所連続全勝してやるという気持ちが強く、負けるわけにいかなかった。曙さんも横綱ですから、優勝は逃してもこの一番だけは負けられない気持ちで土俵に上がっている。実はこの一番で左肩が外れてしまって……。それぐらい死力を尽くしたというか、曙さんにへばりついていたんです」