ライフ

【書評】俵万智・著『生きる言葉』 口当たり優しく、それでいて刺激的な良薬

『生きる言葉』/俵万智・著

『生きる言葉』/俵万智・著

【書評】『生きる言葉』/俵万智・著/新潮新書/1034円
【評者】川添愛(言語学者・作家)

 きわめて個人的な話になって恐縮だが、言葉というものに飽き飽きしていた時期がある。とくに研究者時代は、論文になりそうな言語現象を追い求めた結果、言葉に対する純粋な興味を失っていた。フリーの物書きになってからは少しずつ興味を取り戻してきたが、今でもたまに「モウ、コトバ、ミタクナイ」と思うことがある。

 そういうときの処方箋は、言葉の達人たちが発する言葉の豊かさに触れることだ。この本はよく効いた。口当たりが優しく、それでいて刺激的な良薬だ。

 タイトルからして巧みだ。「人が生きていくための言葉」という解釈もできれば、「言葉そのものが生きている」「こういう使い方をすれば言葉が生きる」といった解釈もでき、どれも本の内容と合致している。しかしけっして言葉の使い方を指南する本ではなく、著者が日々の中で得た洞察をシェアしてくれる本だ。ほぼすべてのページに新しい発見がある。

 著者の視点を借りて言葉を眺めてみると、私が見ていたそれよりもずっと重層的かつ多面的で、絶えず有機的に動き続けている。自分には言葉のほんの一部しか見えていなかったことに気づかされる。ほぼ掘り尽くされていると思っていた鉱脈が、実は無限に広がっていることを教えてもらった気分だ。

 驚くのは、長年にわたって言葉で数多くの作品を作ってきた著者が、今でも言葉に夢中だということ。行と行の間から、子どものように目を輝かせている著者が見えるかのようだ。著者が「むっちゃ夢中とことん得意どこまでも努力できればプロフェッショナル」と詠んでいるとおりだと思った。

 私が言葉に対してこれほどの熱量を持てるかは分からないが、まさに著者の言葉のおかげで(今さらながらだが)言葉とともに歩む覚悟ができた気がする。実に有り難い読書体験だった。

※週刊ポスト2025年6月27日・7月4日号

関連記事

トピックス

2023年ドラフト1位で広島に入団した常廣羽也斗(時事通信)
《1単位とれずに痛恨の再留年》広島カープ・常廣羽也斗投手、現在も青山学院大学に在学中…球団も事実認める「本人にとっては重要なキャリア」とコメント
NEWSポストセブン
事実上の戦力外となった前田健太(時事通信フォト)
《早穂夫人は広島への想いを投稿》前田健太投手、マイナー移籍にともない妻が現地視察「なかなか来ない場所なので」…夫婦がSNSで匂わせた「古巣への想い」
NEWSポストセブン
芸能生活20周年を迎えたタレントの鈴木あきえさん
《チア時代に甲子園アルプス席で母校を応援》鈴木あきえ、芸能生活21年で“1度だけ引退を考えた過去”「グラビア撮影のたびに水着の面積がちっちゃくなって…」
NEWSポストセブン
釜本邦茂さん
【追悼】釜本邦茂さんが語っていた“母への感謝” 「陸上の五輪候補選手だった母がサッカーを続けさせてくれた」
週刊ポスト
有田哲平がMCを務める『世界で一番怖い答え』(番組公式HPより)
《昭和には“夏の風物詩”》令和の今、テレビで“怖い話”が再燃する背景 ネットの怪談ブームが追い風か 
NEWSポストセブン
異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
広島・広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《過激すぎる》イギリス公共放送が制作した金髪美女インフルエンサー(26)の密着番組、スポンサーが異例の抗議「自社製品と関連づけられたくない」 
NEWSポストセブン
1990年代、多くの人気バラエティ番組で活躍していたタレント・大東めぐみさん
《交通事故で骨折と顔の左側の歯が挫滅》重傷負ったタレントの大東めぐみ「レギュラーやCM失い仕事ほぼゼロに」後遺症で15年間運転できず
NEWSポストセブン
悠仁さまに関心を寄せるのは日本人だけではない(時事通信フォト)
〈悠仁親王の直接の先輩が質問に何でも答えます!〉中国SNSに現れた“筑波大の先輩”名乗る中国人留学生が「投稿全削除」のワケ《中国で炎上》
週刊ポスト
1990年代、多くの人気バラエティ番組で活躍していたタレント・大東めぐみさん
《事務所が猛反対もプロ野球選手と電撃結婚》元バラドルの大東めぐみ、人気絶頂で東京から大阪へ移住した理由「『最近はテレビに出ないね』とよく言われるのですが…全然平気」
NEWSポストセブン
「ビッグダディ」こと林下清志さん(60)
《借金で10年間消息不明の息子も》ビッグダディが明かす“4男5女と三つ子”の子供たちの現在「メイドカフェ店員」「コンビニ店長」「3児の母」番組終了から12年
NEWSポストセブン