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【逆説の日本史】無抵抗のネイティブ・アメリカンを皆殺しにした元聖職者の「正義」

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は近現代編第十五話「大日本帝国の確立X」、「ベルサイユ体制と国際連盟 その7」をお届けする(第1458回)。

 * * *
 一九一九年(大正8)当時の世界三大人種差別大国と言えば、オーストラリア連邦、南アフリカ連邦、アメリカ合衆国の三か国と考えられるが、ここで読者のみなさんにあらためて考えていただきたいのは、このうちどの国の人種差別がもっともひどいものであったか、である。

 多くの人々は、前回紹介した「アボリジニ狩り」を考慮に入れ「それはオーストラリアだ」と答えるのではないか。じつは必ずしもそうとは言い切れないのが、この問題の複雑さである。たしかにオーストラリアではアボリジニ大虐殺をやっていたし、そのなかで「遊び」として「アボリジニ・ハンティング」をやり、「獲物」のアボリジニを「一匹、二匹」と数えていたという。じつに許し難い話だ。

 しかし、前回私が紹介したオーストラリアの白人のアボリジニに対する蛮行を告発した『白い人が仕掛けた黒い罠―アジアを解放した日本兵は偉かった』(高山正之著 ワック刊)のなかに、次のような文章があったのを覚えておられるだろうか。

〈さすがに現代は人間狩りはやめたが、アボリジニの女を強姦し子供ができると、白人の血が入っているからと産んだ母親から取り上げて白人社会で育てる形ができている。いわゆる隔離政策である。〉

 たしかに吐き気を催すような話ではあるが、それでも白人社会で育てるということは少なくとも人間としての権利は認める、ということである。

 では、アメリカ合衆国はどうだったか? 前々回に述べたとおりだ。白人の「ご主人様」が黒人奴隷の女性をレイプして子が生まれたら、「ご主人様」はその子を奴隷として使役するか売りに出し、自分の子供として遇することは一切無い。なぜなら、アメリカでは「白人の血が入って」いても生まれたのは「人間」では無く、「家畜」と見做されたからだ。

 たしかに、エイブラハム・リンカーン大統領が奴隷解放宣言を出し、南北戦争で北軍が南軍に勝利した一八六五年以降は憲法が変わり、白人と黒人の混血児も「人間」として扱われるようになった、だがそれ以前は、アメリカの人種差別はオーストラリアよりひどかったのである。

 さらにアメリカには、黒人差別のほかに先住民であるネイティブ・アメリカンに対する激しい差別もあった。いま六十歳以上の人はかろうじて覚えているかもしれないが、かつて日本のテレビ局で盛んに放映していたアメリカのいわゆる「西部劇」では、ネイティブ・アメリカン(当時はアメリカ・インディアンと呼ばれていた)の部族の一つアパッチ族が悪役で、むやみやたらと白人を殺しその頭の皮を剥ぐ野蛮人として描かれていた。

 しかし真実はまるで逆で、先住民である彼らの土地に侵入し彼らを虐殺して頭の皮を剥いでいたのは、白人のほうだったのだ。

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