ライフ

【逆説の日本史】アメリカは「大東亜共同宣言」をなぜ抹殺しようとしたのか?

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。今回は近現代編第十五話「大日本帝国の確立X」、「ベルサイユ体制と国際連盟 その9」をお届けする(第1460回)。

 * * *
 一九四一年(昭和16)に始まった「あの戦争」は「太平洋戦争」では無く、「大東亜戦争」と呼ぶべきであることは理解していただけたと思うが、前回まで述べたことだけではまだじゅうぶんでは無い。アメリカが「太平洋戦争」と呼ばせたのは、「大東亜」という言葉を残せば、歴史研究者なら誰でもたどり着く「歴史項目」への「接触」を防ぐためであった。その「歴史項目」とは、いったいなにか? それは二つあって、一つは前回紹介した「大東亜共栄圏」であり、もう一つは「大東亜共同宣言」である。

 では、大東亜共同宣言とはなにか?

 じつはこの宣言、私の手許にある高校の歴史教科書(『詳説日本史』佐藤信、五味文彦、高埜俊彦、鈴木淳編著 山川出版社刊)には、まったく載せられていない。これは大東亜戦争が始まった後の一九四三年(昭和18)十一月に、当時の東條英機内閣が日本を支持するアジア諸国の代表を東京に集めて大東亜会議を開催し、その合意事項として世界に向けて発表した宣言なのだが、この教科書ではそのあたりのことをどのように記述しているか、紹介しよう。

〈1943(昭和18)年11月、東条内閣は、占領地域の戦争協力を確保するために、満洲国や中国(南京)の汪兆銘政権、タイ・ビルマ・自由インド・フィリピンなどの代表者を東京に集めて大東亜会議を開き、「大東亜共栄圏」の結束を誇示した。【しかし、欧米諸国にとってかわった日本の占領支配は、アジア解放の美名に反して、戦争遂行のための資材・労働力調達を最優先するものであったので、住民の反感・抵抗がしだいに高まった。】〉
(【】引用者)

 傍点部は、歴史的事実に対する評価分析である。もちろんそれは必要だが、その前に歴史的事実としてなにがあったのかを過不足無く記録しなければならない。おわかりのように、その前段の文章にある「『大東亜共栄圏』の結束を誇示した」というのが、具体的には「『大東亜共同宣言』の世界に向けての発信」になったわけだから、歴史教科書としてはこの宣言の内容に触れなければならない。

 こう述べると、左翼歴史学者たちは「教科書に掲載可能な項目は限られている。すべてを載せればあまりにも膨大なものになってしまうから、取捨選択する必要がある」と反論してくるかもしれない。だが、その反論は一般論としては成立するが、この場合にはまったく当てはまらない。

 それを証明するために、あくまで仮の話であるが、私自身が「大東亜戦争いや太平洋戦争は、大日本帝国がすべて悪い」という左翼歴史学者の立場に立ってみよう。つまり、「大日本帝国が起こした『太平洋戦争』は犯罪であり、『一片の正義も無い』」という「検事」の立場である。

関連キーワード

関連記事

トピックス

参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
《実は既婚者》参政党・さや氏、“スカートのサンタ服”で22歳年上の音楽家と開催したコンサートに男性ファン「あれは公開イチャイチャだったのか…」【本名・塩入清香と発表】
NEWSポストセブン
かりゆしウェアのリンクコーデをされる天皇ご一家(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《売れ筋ランキングで1位&2位に》天皇ご一家、那須ご静養でかりゆしウェアのリンクコーデ 雅子さまはテッポウユリ柄の9900円シャツで上品な装いに 
NEWSポストセブン
注目度が上昇中のTBS・山形純菜アナ(インスタグラムより)
《注目度急上昇中》“ミス実践グランプリ”TBS山形純菜アナ、過度なリアクションや“顔芸”はなし、それでも局内外で抜群の評価受ける理由 和田アキ子も“やまがっちゃん”と信頼
NEWSポストセブン
中居、国分の騒動によりテレビ業界も変わりつつある
《独自》「ハラスメント行為を見たことがありますか」大物タレントAの行為をキー局が水面下でアンケート調査…収録現場で「それは違うだろ」と怒声 若手スタッフは「行きたくない」【国分太一騒動の余波】
NEWSポストセブン
定年後はどうする?(写真は番組ホームページより)
「マスメディアの“本音”が集約されているよね」フィフィ氏、玉川徹氏の「SNSのショート動画を見て投票している」発言に“違和感”【参院選を終えて】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
皇室に関する悪質なショート動画が拡散 悠仁さまについての陰謀論、佳子さまのAI生成動画…相次ぐデマ投稿 宮内庁は新たな広報室長を起用し、毅然とした対応へ
女性セブン
スカウトは学校教員の“業務”に(時事通信フォト)
《“勧誘”は“業務”》高校野球の最新潮流「スカウト担当教員」という仕事 授業を受け持ちつつ“逸材”を求めて全国を奔走
週刊ポスト
「新証言」から浮かび上がったのは、山下容疑者の”壮絶な殺意”だった
【壮絶な目撃証言】「ナイフでトドメを…」「血だらけの女の子の隣でタバコを吸った」山下市郎容疑者が見せた”執拗な殺意“《浜松市・ガールズバー店員刺殺》
NEWSポストセブン
連続強盗の指示役とみられる今村磨人(左)、藤田聖也(右)両容疑者。移送前、フィリピン・マニラ首都圏のビクタン収容所[フィリピン法務省提供](AFP=時事)
【体にホチキスを刺し、金のありかを吐かせる…】ルフィ事件・小島智信被告の裁判で明かされた「カネを持ち逃げした構成員」への恐怖の拷問
NEWSポストセブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン