しかし、どんな極悪人であれ、情状酌量する余地がまったく無いというケースはきわめて少ない。「盗人にも三分の理」ということわざもある。だから、いかに「被告の有罪を確信している検事」でも絶対に省略してはならないのは、「被告人の心情」を考察することである。
通常は自白などがその材料にされるが、ここに「被告人の犯行声明」があったとしよう。つまり、「なぜ『犯罪』に踏み切ったかを本人が詳細に語った文書」である。それがあるならば、絶対に内容に触れなければいけない。それが裁判の公正さを保つために不可欠なことである。
左翼歴史学者の方々には、「人権弁護士」と呼ばれるお友達がいっぱい居るかもしれない。だったら、そういう人に聞いてみればいい。「犯行声明を一切無視した検事の論告は、裁判において有効か?」。「問題無い」という弁護士は一人もいないはずである。
つまり、あくまで左翼歴史学者という「検事」の立場に立てばの話だが、大東亜共同宣言というのは「被告大日本帝国」が「なぜ大東亜戦争に踏み切ったか」、という「犯行声明」なのである。この時代の一連の歴史を「裁く」のならば、決して省略してはならない歴史項目であることが、おわかりになったと思う。そして、ここまで書けばなぜアメリカが、現在は教科書にすら載せられていない(アメリカの陰謀が成功したということ)「大東亜共同宣言」を歴史から抹殺しようと考えたか、想像がつくと思う。
その内容については、詳しくは昭和史に入ってから述べようと思うが、ここでは一番肝心な部分を紹介しておこう。国立公文書館アジア歴史資料センターのホームページから引用するが、宣言の冒頭には次のようにある。
〈同會議ニ於テハ大東亞戰爭完遂ト大東亞建設ノ方針トニ關シ各國代表ハ隔意ナキ協議ヲ遂ゲタル處全會一致ヲ以テ左ノ共同宣言ヲ採擇セリ
〈大意〉
大東亜会議において、大東亜戦争の完全遂行と大東亜共栄圏の建設の方針について、各国代表は率直に協議した結果、全会一致で次の共同宣言を採択した。〉
以下、煩雑となるので私が現代語訳しよう。原文をチェックしたいという方は、国立公文書館のホームページにアクセスされたい。これには英語、中国語、フランス語訳も載っているので、ひょっとしたら若い人は英語のほうがわかりやすいかもしれない。核心の部分は、なぜ大東亜戦争を遂行しなければいけないか、その理由について述べているところである。
〈アメリカとイギリスは自国の繁栄のために他国や他民族を抑圧し、とくに大東亜(東南アジアあるいはオセアニア)に対しては、飽くことの無い侵略および搾取を行ない、大東亜を奴隷化しようとしている。(中略)大東亜戦争勃発の根本原因はここにある。〉
つまり、「英米のほうが悪い」ということである。これは共同宣言の前文の部分だが、それに続く項目のなかで最後の五番目には次のような文言がある。
〈大東亜共栄圏に属する各国は、あらゆる国との友好を重んじ人種的差別を撤廃し、文化の交流を進め、資源を開放し、世界の進展に貢献することをめざす。〉
つまり、少なくとも大日本帝国は地球から人種差別を撤廃するという基本方針については、国際連盟設立の時点からいささかもブレてはいないということだ。すでに述べたように、日本人は台湾支配にあたって首狩りなどの習慣を持つ先住民(日本はこれを高砂族と呼んだ)を「文明の民」にするために、教育やインフラ整備などあらゆる努力を惜しまなかった。
また、第一次世界大戦後に日本の委任統治領となった南太平洋の島々でも同じことを行なった。世界は、とくに人種差別に苦しむ人々は当然日本のそうしたやり方に注目している。なかには、日本が「世界の盟主」になってくれればいいのにと思った国々も当然あっただろうし、逆に人種差別は当然だと考えている国々は、日本の「台頭」をなんとか防がなければならないと考えただろう。