芸人の関西弁が飛び交う吉本興業運営の「なんばグランド花月」
関西出身ではない人でも、何気なく使っている「関西弁」。いまやその代表格で、流行語にもなるほど浸透している言葉が「知らんけど」だ。
大阪出身の日本語学者で役割語研究の第一人者・金水敏氏は、「『私、よく知らないんだけど、~らしいよ』といった話し方は特に関西人でなくても使う言い回し。ただ、その使用頻度が関西人は特に高い」と指摘する。
なぜ人々は「知らんけど」に魅力されるのか。いかにして全国的に広まったのか。そして、関西人がこのフレーズを好む理由とは──。
金水氏の著書『大阪ことばの謎』(SBクリエイティブ)から、「知らんけど」流行化の理由についてお届けする。(同書より一部抜粋して再構成)【全3回の第3回。第1回を読む】
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関西由来で関西外の人が使っている最新層の表現には、例えば「ちゃうねん」「ゆうて」「知らんけど」といったものがある。
この中で特に「知らんけど」は、2022年12月、「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10入りし、話題となった。それ以前からTwitter(現在のX)で言及したり、用いたりする人が徐々に増加していたのだが、このイベントで「知らんけど」の知名度はネットの世界を飛び出し、多くの日本語話者の知るところとなった。「知らんけど」が全国的な話題になるまでの足跡を、時系列で推測してみると、おおよそ次のようになる。
・2010年頃まで──揺籃期
関西人が普通に会話の中で気づきもせずに使っていた。
・2010年代~2018年頃──成長期
ネットで話題となり、使ってみる人も出てきた。私がTwitterで見つけた一番古い投稿は、次のようなものである。
あっかちゃん「関西人が語尾につける「知らんけど」はただ無責任なだけではなくて、「(その前にくる意見は)あくまで私個人の見解ですよ 真実かどうかはまぁ 知らんけど」ていう意味なのでただ単に投げっぱなしな訳ではないのです 知らんけど」(2012年11月26日)。
なお、このユーザーは既にアカウントを削除している。私が確認したときには、4484リツイート、1243いいねが付いていた。
また、大阪出身の芥川賞作家の柴崎友香氏のエッセー集『よう知らんけど日記』が2013年に出版されていることは注目される。序文には、「東京で暮らす小説家が、大阪弁でぼちぼち綴ります。日々のあれこれ。「よう知らんけど」は、関西人がさんざん全部見てきたかのうようにしゃべったあと、「絶対にそうやって!……よう知らんけど」と付けるアレですよ。」とある。
BUZZmag、ツイナビ、ねとらぼ、ニコニコ大百科等のネットメディアで取り上げられ、ネットユーザーには次第になじみ深いフレーズとなりつつあった。
・2018年~2020年──大手メディアに発見され、流行語認定
2018年10月に、日向坂46OFFICIAL WEB SITEで小坂菜緒さん(大阪府出身)が「知らんけど」について言及していた。小坂さんはブログのタイトルが長いことで知られているが、当該のブログのタイトルは、「昨日、家族と大阪弁について話をしてたんですけど、まぁ終始爆笑みたいな感じで、関西の人って話し始め『ちゃうねん』から始まるんですね、これは私も同じです。話の終わりは『知らんけど』これもよく使います。つまり大阪弁は関東人には理解するのに時間がかかるのではないかと思います。知らんけど」であった。
同年、「J-CAST ニュース」で、また2019年には「excite ニュース」で取り上げられた。2019年の読売テレビ開局60年「す・またん!」10周年プレゼンツのイベント名が、『関西やってみなはれ博覧会~知らんけど~』であった。また同じ年、MBSテレビ「コトノハ図鑑」という番組で、「“知らんけど”徹底調査◆関西人なら使う!でも他府県の人には謎!?」という内容が放送された(筆者も協力)。2020年には「日本経済新聞」が特集記事を組み、「日刊SPA!」が記事を掲載した。