2002年3月5日、ローソン次期社長就任が決まり記者会見する三菱商事でローソン事業のユニットマネージャーを務めている新浪剛氏。社長就任後「新浪剛史」と改名(時事通信フォト)
新浪氏の持論のひとつに「顧客志向」がある。顧客への目配せは商売人としてさすが、と誰しも認める人だ。横浜の一般家庭(父親は横浜港の荷役会社を経営)に生まれ、地元公立高校から慶應義塾大学、三菱商事時代に入社しハーバードでMBAを取得、コンビニ戦争の負け組になりかけたローソンに転じて社長として立て直し、サントリーホールディングスの代表取締役会長、経済同友会代表幹事にまで上り詰めた「サラリーマンの星」でもあった。過去の発言やパワハラはともかく、世襲でなく明晰な頭脳と行動力でのし上がってきた彼は憧れ、というビジネスマンもいる。
しかしその「顧客」とは一般国民のことでもある。いま買わなくても客になるかもしれない、いま買っていても客じゃなくなるかもしれない一般国民という「人」。その顧客の先には人がいる。人の先には心がある。
それを考えれば、これまでの発言や行動があらゆるところで蒸し返され、SNSでそれこそ総スカンばかりの現状はまさに「それはいつか運命になるから」で締められるマザーテレサの言葉(諸説あり)そのものである。そんなことは「顧客志向」の新浪氏にはわかりきっている話だろうが、わかりきっているとするならなぜ、こんな事態に陥ったのか。
3日の会見の限り、事の真相はともかく先行きは厳しいように思う。「やはり新浪剛史とはこういう人だったのか」と、すべてが見えてしまったような失敗会見だった。みんなの印象の焦点が合ってしまったような会見、本当に厳しいと思う。
●日野百草(ひの・ひゃくそう)/出版社勤務を経て、内外の社会問題や社会倫理、近現代史や現代文化のルポルタージュを手掛ける。日本ペンクラブ広報委員会委員。
※一部敬称略