「釜じい」こと朝田釜次役を演じた吉田鋼太郎(写真提供/NHK)
ついに最終回を迎えたNHK朝ドラ『あんぱん』。放送開始以来、作品の人気を支えてきたのが主人公2人を取り巻く個性豊かなキャラクターたちだった。主人公・のぶ(今井美桜)の祖父である「釜じい」こと朝田釜次役を演じた吉田鋼太郎が、撮影時の秘話や物語への思いを振り返る。
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今回と同じ中園ミホさん脚本の『花子とアン』(2014年)以来の朝ドラ出演となりました。
僕が当時演じた嘉納伝助は憎まれ役。ヒールは得意分野なので「しめた!」と思いましたが(笑)、『あんぱん』の釜じいは伝助とは真逆のジジイで一家の陰の力持ち。昭和のカミナリオヤジ的な怖い一面もありつつ、ユーモアがあって憎めない人柄だろうとイメージして演じました。
釜次は石屋を営む明治生まれの職人で、典型的な頑固者。根は優しくて家族思いで、表には出さないが3人の孫娘を溺愛している。女性はおしとやかでなければならない時代だから、のぶのおてんばには少し頭を痛めてもいた。
古い価値観との狭間で悩んでいたところ、家業を自分の代で畳む決意をした時、孫娘たちに「この家に縛られたらいかんぞ。おまんらも面白がって生きえ」と語りかけ、「女子も、いや女子こそ大志を抱きや」と励ますシーンでは、釜じいなりの古い考えからの転換を感じて印象的でした。
僕は結構視聴者の方の意見を参考にしていることがあるんです。この歳になると誰も注意してくれないからね。
釜じいのことは「朝から騒がしい」などが目立った気がして(笑)。演出の柳川(強)さんとは「うるさいジジイ」というキャラクターで一致していたので迷いはなかったけど。
何より僕は、今回アイドル時代から大ファンだった浅田美代子さんと夫婦役が演じられて嬉しかった。
しかも浅田さんは撮影の合間にもたくさん話をしてくれ、より砕けたいい空気で距離を縮めてくれました。浅田さんがリードしてくださる感じで、長年連れ添った夫婦の雰囲気が出せたように感じます。
息子の結太郎(加瀬亮)を早くに亡くした後、息子のように可愛がっていた弟子の豪(細田佳央太)を見送らなければいけないシーンは演じていても辛かった。
戦地からの訃報を届けた男性に、「ご苦労様でございました」と労いの言葉をかけて見送りますが、本来なら釜次は、相手に「なぜ、どこで、どうして」と聞きたいはず。
そういった言葉を飲み込み、ただ「ご苦労様でした」と労うのは、あの時代を生きた釜じいのような性質の男のリアルでないでしょうか。そうすることで釜じいの痛切な思いが伝わるだろうと、想像力を駆使して、演じました。
その後は豪の名前を叫び、ぐっと堪えた怒りと悲しみの慟哭でした。
改めて、中園さんの脚本はやっぱりすごい。最初に読んだ時から号泣したほどです。
【プロフィール】
吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)/1959年生まれ、東京都出身。主な出演作に映画『三度目の殺人』『カイジ ファイナルゲーム』、大河ドラマ『麒麟がくる』、ドラマ『半沢直樹』『おっさんずラブ』など。
※週刊ポスト2025年10月3日号